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第一話
『今日も全員失敗?』
『見ての通りです」
『だーれも気づかれてないよ』
深夜二時。三体の幽霊たちは家主が電気を消し忘れたリビングに集まり、今日の反省会をしていた。
『真逆さんは? 初めてエレベーター乗ったんでしょう?』
真逆さんと呼ばれたのは、文字通り首が真逆を向いている女の霊だ。リビングのソファに座っているが長い髪の先が床についており、さらには顔が逆方向を向いているので、一見すると黒い髪の毛の塊が話をしているように見える。
『乗りましたよ! わざわざ世加様が帰ってくる時間を見計らってエレベーターに乗って、一階まで降りたんです。キョンシーの真似までして』
『キョンシーは関係なくない?』
『ってことはエレベーターで二人きりだったと」
『そうです。でも普通に通り抜けられちゃいました。その後、驚かせようとして五階のボタン押そうとしたんですけど、世加様が押す方が早くて……』
『残念ね。あの人、スマホ見ながらでも結構早い動きするのよね。膝下ちゃんは?』
膝下ちゃんと呼ばれたのは、ランドセルを背負っている膝から下の足がない少女だった。正確には右足の膝から下がなく、左足の膝から下はあるものの、皮膚がえぐれて骨が丸見えになっている。彼女もまたリビングのソファに座っており、赤いランドセルが背もたれにめり込んでいる。
『あたしは廊下で待ち伏せしてみたけど、普通に無視されたよ。ためしにリコーダーも吹いてみたけどダメだった』
『ちなみに何の曲を演奏されたんですか?』
『パッヘルベルのカノン』
『え、あれ、カノンだったんですか? 全然違う曲を想像してました』
『あたし、楽譜持ってないから』
『曲はどうであれ、リコーダーの音が聞こえないって相当よね』
『もっと激しい曲を吹けばいいんじゃないですか?』
『そういう問題? で、首無しさんは洗面所で待ち伏せ?』
首無しと呼ばれたのは、文字通り首から上がない幽霊だ。薄い茶色の着物を着て両足をきれいに揃えてソファに座っている。
『ええ。鏡を通せば見えるかしらって思ったんだけど、やっぱり無理だったわね……』
そこで全員が深くとため息をついた。息は出ないのでそれらしい声が出ただけだが。
『どうしたものかしら。まさか世加様にここまで霊力がないなんて』
首無しは首より少し上の何もない空間に手を添える。もしそこに頭があれば首を傾けているように見えるのだろう。
『困ったものですよね。私たち、こんなに頑張ってるのに……』
『でもきっとまだまだできることがあるのよ』
『やっぱりリコーダー協奏曲くらい吹けなきゃダメなのかな』
『曲の問題なんですか?』
『曲は大事よ』
三体の幽霊は一か月前に掵代世加がこのマンションに引っ越して来てから、毎日こうして反省会を行っていた。
どうすれば家主である掵代世加に存在を気づいてもらえるのか。幽霊たちの議題は常にこの一点である。
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