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『確かに。俺もここまで進化するとは思わなかったっス』
『私も今の時代に生きていたら、清太郎さんの声をもっとたくさん聞けたのでしょうね……』
『今ってどこにいても電話できるもんね』
四体が家電製品の話題で盛り上がっていると、突然片手が閃いたと言いだげな顔をした。
『そうだ! テレビだよ!』
『何? どうしたの?』
『どうしたの、片手くん』
『テレビだって! 今からテレビつけて大音量にして世加様を驚かせるんだよ!』
片手はこれは名案だと笑っているが、ほかの三体は気乗りしない様子だった。
『ポルターガイスト、ねえ……疲れるんですよ……あれ……』
『あんなの、暇すぎて人間と遊びたい霊か、怨み強すぎてポルターガイストでも起こさないとやってられない悪霊がやるもんでしょ?』
『悪霊は保有する霊力が桁違いですから』
『俺らも人間からしたら似たようなもんっスよ』
『まあ、今の片手くんはできないだろうから、やるとしたら真逆さんと私と膝下ちゃんかしら?』
『面倒なのよね』
『俺、頑張って夢に入ったじゃん!』
『まあ、そうだけど、こんな時間にテレビつけたら近所迷惑じゃない?』
『幽霊が近所迷惑気にしてどうするんスか!』
それもそうか、ということで三人は仕方なく霊力を使ってテレビをつけるというポルターガイストを起こすことにした。
真逆がテレビの電源を入れる。霊体は本来現世のものに触れることはできない。しかし霊力を指先に集中させ、さらにボタンを押すイメージを何度も繰り返せば触れることができる。もちろん長時間はほぼ不可能だ。
『ちゃんと寝室に聞こえるように音量もあげましょうか』
首無しがリモコンを使って一気に音量を上げる。
『突然、リビングのテレビがついて、しかも音量が普段の倍となればさすがの世加様も気づくでしょ』
テレビでは深夜アニメが放送されており、ピンク色のドレスのような服を着た女の子たちが、魔法という不思議な力を使って何かと戦っている。
『そろそろ起きるんじゃない?』
音量を四十五まで上げて数分経ったところで、リビングのドアが勢いよく開いた。予想していた通り、テレビの音に気づいた世加が寝室から出てきたのだ。
霊達の視線が一気に彼女に集まる。さきほどまでペラペラと話していた彼らは、ソファに身を寄せ合って彼女の行動に目を向ける。
深夜に突然テレビがつく。それも大音量で。これがポルターガイストと言わずなんと言えようか。さすがの世加でもこの部屋に何かがいるかもしれないと思うはずだ。
薄いブルーのパジャマ姿の世加は、テレビに視線を向けると、そのままそちらに向かって行く。
「うるさいなあ!!」
彼女は勢いよく電源のコンセントを抜いた。霊力を使えばコンセントが抜かれた状態でもテレビをつけることはできるが、ポルターガイストに怯えることなく、むしろ怒りに身を任せてカードを抜いた家主に驚いた霊達に、これ以上テレビをつけ続けるメンタルの強さはなかった。
「壊れてんのかな」
世加は不機嫌そうにぶつぶつと呟きながら、寝る前に消し忘れたリビングの電気を消して寝室に戻った。
真っ暗になったリビングで、四体の霊達は大人しく朝が来るのを待つことにした。
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