破滅

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 幾度となく続いた地響きはやがて全ての建物を倒壊させた。翔太の家も例外では無く、最初の大地震から5時間が経過した今では見る影も無くなっていた。母への連絡も試みたがどこへ行っても電波を受信することは無く、こうして瓦礫の上で途方に暮れている。  「もう誰もいねぇや」 騒動のすぐ後、逃げ惑い泣き叫ぶ人々で溢れ返ったこの地に大きなトラックが通った。スピーカーを通し救援車だとやかましくアナウンスが流れ、パニックを起こした住民達はすがるようにコンテナに吸い込まれて行ってしまった。翔太はそれに何かを疑った訳では無かったが、純粋に運悪く電波を探す旅に出ていた為に入れ違いとなった。  「腹…減ったなぁ」 こんな時にも男子高校生の胃袋は健在だった。空腹の虫が夏の夕暮れに寂しく響く。 その時だった。ゴトリ、と、一面の瓦礫野原から重い音がした。翔太は瓦礫の山から半ば滑り落ちる様にしてその音のする方へと近付いた。  「ぅ…ううん…」  「人だ!?」 山の中から伸びた白く細い腕を掴むと、ちから一杯に引っ張った。ガラガラと音を立てて中から少女が救出された。  「ありがとう助かったよ」 そう言ってパタパタと服をはらう彼女は翔太と同じ年頃に見える。  「おい、大丈夫か?」  「地震の時に家具が倒れて逃げ遅れて、頭を打ったみたいで気を失ってたの。目が覚めたら瓦礫の中だしあちこち痛いし、ビックリしちゃった」 彼女は現実離れした透き通る白い肌と色素の薄い瞳でこちらに微笑む。  「わたし皆藤満留(かいとうみちる)桜南(おうなん)高校の3年生です」  「あ…俺は夏芽翔太。松ノ木(まつのぎ)高校の、同じく3年生だよ」聞き覚えの無い高校名に意識を持っていかれながらも、翔太は差し出された手を握り返し軽い握手を交わす。  「でも不思議だな、こんな近所に同学年が居たなんて知らなかった」  「違うわ、わたしこの辺じゃ無いの。今日はたまたま親戚の家に来ていただけなんだ」  「だから知らない学校なのか。良かった、俺の常識不足かと思ったよ」  「ふふ、でもあながち…」そこまで言って満留は言葉を止めた。さっきまでとは別人の様な鋭い目つきで辺りを見回す。  「どうした?」  「しっ!声を出さないでこっちに来て」 連れられるままに崩れた屋根の瓦礫の隙間に身を隠す。しばらくすると複数の足音が聞こえてきた。じゃりじゃりとこの崩壊した地を歩き回る音は、時折止まっては何かを探している様だった。  「対象無し、異常無し、帰還します」 足音の主達はそう言って足速にどこかへ行ってしまった。  「…」  「…」 沈黙を破る様に、ぐぅ、と翔太の腹が空腹を知らせた。  「夏芽くんさぁ…」呆れる満留に翔太がはにかんで笑う。  「ごめんごめん、ずっと腹減っててさ」  「緊張感とか無いの?」 翔太も脳天気な訳では無い。この状況が異様な事は感じていた。  「…さっきのは何なんだ?」  「ここにも来たでしょう、が」  「あいつらって、トラックの救援の事か?」翔太の記憶する限りではそれ以外にものが無かった。満留が気を失っていた間の出来事を話す。  「そう、もう既にトラックまで…。ねぇ、絶対彼らに見つかっては駄目だからね」 満留はそう言って、翔太の手を取った。  「Requiem、それが彼らの名前よ」
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