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第一話
ユカワくんは理科が好きだ。
まだ小学生なのに、部屋の棚に並んでいるのはコロコロコミックじゃなくて科学の本とフラスコ。学校にはいつも白衣を着てやってくる。
おまけに実験をやりだすと止まらない。去年の冬なんて、蒸気機関で動くロボットを作ろうと、学校中のストーブからパイプを取り外してしまった。結果、先生にこっぴどく怒られた。
そうやって怒られる彼のとなりには、ぼくがいた。なんたって、クラスで一番仲のいいぼくがユカワくんの助手なのだから。実験のときも怒られるときも、ぼくらは一緒だ。
ある夏の夜。ぼくらは夏休みの自由研究として、天の川を見に行くことになった。
丘の上の展望台でユカワくんが黙って望遠鏡を組み立てている隣で、ぼくは思わず声を漏らした。
「うわあ・・・!!」
空の上に突っ切るピンク色に塗られた光の川。今年の七夕は奇跡的な晴れ空で、これ以上ないというくらい、星が良く見えた。自由研究の題材に選ぶまで、星空なんて生活の中で意識したことがなかった。それが、こんなにきれいなものだなんて。
ずっと空を見上げていると、なんだか頭がぼうっとしてきた。魂が体から抜け出して、あの空の光の中へ吸い込まれていく気分。へんに胸がどきどきしてくる。
「ねえ、ユカワくん。この宇宙ってどうやって始まったのかな。もしも宇宙をつくった神様がいるんなら、その人は何を考えて、どんな風にこの世界を作ったんだろう。」
作業をしていたユカワくんの手が、ぴたっと止まった。そしてゆっくりとぼくを見上げる形になる。
「ウツミくん、それだよ!」
何を思ったのかせっかく組み立てた望遠鏡を、今度はすごい勢いで片付け始めた。
「自由研究の課題は変更だ。ボクたちは神の意図を解明するんだ!これは科学史上、ガリレオにもホーキング博士にもなしえなかったことだ!」
何が言いたいのか分からない。五年間の付き合いでこんなことは初めてだ。
「つまり・・・何をするの?」
「宇宙を創るんだよ!ぜひやろうじゃないか!」
メガネの奥の小さな瞳を天の川並みに輝かせながら、ユカワくんは宣言した。
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