深淵
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ただの気のせいだ。 不気味な壁の模様も後ろからついて来るひそやかな足音も気のせいに決まっている。 この閉鎖的で異質な空間に囚われ敏感になっているだけだ。 男はそう自分に言い聞かせ、地下へ続く階段を、再び降り始めた。 壁に取り付けられた無機質なプレートには「六階」とあった。最下層の地下十一階まで、およそ半分の距離を降りてきたことになる。
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