② ※R-18 暴力表現

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② ※R-18 暴力表現

 頬に痛みを覚え目覚めると、男はまたニヤニヤと嫌な笑いを浮かべて俺を見ていた。  男との距離の近さに身が竦むが、ちらりちらりと辺りを窺う。  どうやら前回と同じ場所で、今度はこの男ひとりのようで少しだけほっとした。 「あらあらー? 何安心しちゃってるのかな? 俺ひとりだからって舐めて貰っちゃー困るなぁ。俺はαなの、分かる?」  そう言って笑顔で俺の顔をパンっと平手打つ。 「ね?」  「ね?」と言われても、痛くてそれどころじゃないし、何でこんな目に合わなくちゃいけないのか悔しくて堪らない。 「こないだヤリ損ねたから今度こそお前をぐちょぐちょに犯してもよかったんだけどー、お前アイツのお古っしょ? 俺お古はいらないんだよね。だってそれじゃあアイツに勝てない。だからさ、ちょこっとだけ方向性を変えて――」  再び殴られる。 「と、こういう事にしたわけ。アイツの物を俺が壊す、ほらアイツに勝てると思わない? くはははっ!」  おかしな笑い声とともに狂ったように殴られ続ける。  俺が吐き出した物と血の匂いが充満する中、突然男の動きが止まり、すんすんと鼻を鳴らし匂いを嗅ぎ始めた。 「あれれ? 番ってない? もしかしてお前アイツに抱かれてないの? 処女ちゃん? それとも愛人(おもちゃ)?」  分かっていた事とはいえ、こんなやつにこんな風に言われて酷く傷ついてる自分がいた。  俺はどちらとも答えず男の事を睨みつけた。 「はぁ――愛人って感じでもないよね、処女ちゃんで正解かなー? じゃあ違う方法もアリって事か」  と男がにんまり笑い、違う方法が何を示しているのかを理解し青ざめた。  殴られるのも怖いし嫌だ。だけど、こいつに項を噛まれるのだけは絶対に嫌だ。  身を丸くするが肝心の項が出ている事に気づき「あ!」っと思うが、男が俺の首に填まっている首輪を掴み、何とか外そうとするが外れなくて苛立っているようだ。ぐいぐい引っ張られて皮膚が擦れて痛い。  あ、美幸の母親がくれた首輪――、あの時は首飾りだなんてしゃれた言い方知らなかったからそう言っただけだったんだけど、もしかしてこれってネックガード?  最初のメイドに俺がもっと大きくなったら、と言われてそれっきりになっていた物だ。  じゃあ俺と美幸が番になっていない事も知ってた? それでも嫁だって言ってくれてた?  こんな事になった時項を守れるようにこれをくれたの――? 「ったく! なんだよっ! このいかれた首輪はっ!」  こういう事もよくあるのだろう、慣れた手つきでネックガードを外す為の道具を出してきて試すが、どれも反対に壊れてしまっていた。  俺には首輪(これ)があったけど、こんなものすごい物を誰でも用意できるとは思えない。何人のΩがこいつにこんな目に合わされてきたんだろう……っ。  沢山のΩたちの痛みを思い、恐怖や痛みよりもこの男への怒りが勝った。 「――知ってたか? Ωの幸せはα次第なんだって」  昔最初のメイドに言われた言葉だ。 「突然何? この俺に説教?」 「だからさ、いつまでもこんな子どもの癇癪みたいな事してないで好きなΩでも見つけて、誰にも負けないくらい幸せにしてやれよ。そしたらお前はそのΩにとって一番になれるから、誰に勝つとか負けるとかじゃなくお前だけを愛してくれるから――」  男は俺の言葉に少しだけ動揺し、俺を拘束する手を緩めた。  俺はその隙を見逃す事なく、男の顎目掛けて頭突きをくらわせた。  「ガッ!!」という大きな音ともに吹き飛ぶ男。  逃げる為によろよろとドアに向かうも、すぐに男に脚を掴まれ引き倒されてしまう。そして髪を掴まれ鬼のような形相で睨まれるが、もう俺は震えたりはしない、負けじと睨み返した。が、これ以上俺にできる事はない。番にされなくても酷い事をされる覚悟をした時、「ドーン」という音がしてあの時と同じようにドアが蹴破られ、美幸が現れた。  美幸は子どもではなく、年相応のあの写真に写る美幸のまま冷たい目でこちらを見ていた。  だけどちっとも怖くなんかなくて、やっぱり幼児退行(アレ)は嘘だったんだと思った。騙されたんだと分かっても、不思議な程に美幸に対して腹は立たなかった。来てくれて嬉しいという想いが俺の中で広がっていくだけだった。  それから後の事は、美幸の顔を見て安心したのか俺は気を失ってしまったから分からない。
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