読書をしたくてブルーレイが壊れる

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読書をしたくてブルーレイが壊れる

私の部屋にあるブルーレイが壊れた。 ディスクじゃなくて、本体の方。 そういえば夏の間、時々激しくうなっていた。 私は録画したお気に入りの番組を、何度も繰り返し見るタイプである。だけど―― 見たい番組録画できなくなる! 急いで買い替えなきゃ! ――という考えは、意外にも一瞬で終わった。 「……しばらくこのままでもいっか」 と様子を見ることにした。 ブルーレイではなく、私の様子を。 すごく久しぶりに「読書に没頭したい」と思い立ち、ちょうど小説を読み始めていたときだった。 この二、三年くらいだろうか。読むにしろ書くにしろ、物語にどっぷりと深く入り込む経験が極端に減っていた。 代わりに増えたのは、スマホやパソコン画面を凝視すること。 こうなると、目の奥の、深ーいところに異変が現れる。視神経が凝り固まったのだろうか。磁石が反発しているときのような、マヒしたような感覚になる。ひどいときは、「今、殴られた?」と勘違いするほどの、グワンとした衝撃が頭に走ることも。 これだけならまだいい。 画面から離れれば済む話だから。 一番良くないのは、目の奥の異変に加えて、脳が硬直するような感覚になること。 この感覚にまで陥ってしまうと、私の脳は創作や文学といった世界から遠ざかってしまう。 本当に脳が硬直してるのではと思うほど、私の中を、文章が流れなくなってしまうのだ。 私の中には、常に文章が流れていた。 美しい風景に接したら、それを言い表す文章が紡がれ、脳内に流れた。 衝撃的な出来事に心を痛めたときも、その痛みを表現する文章が現れ、流れていた。 同時に、その文章を組み込んだ物語のワンシーンがふわっと現れ、ぼんやりと登場人物の姿も浮かんだ。 私の中には、常に文章が流れていた。 あの感覚を、取り戻したい。 今私の脳は、ちょっと硬直気味だ。 だから久しぶりに、読書をすることにした。 することにしたというより、したかった。 小説を読んで、どっぷりと物語の世界に潜りたい。 私にとって物語を書くこと・読むことは、海に深く潜ることや、良質な睡眠を取ることにも似ている。どっぷりと物語に潜り込めたあとは、長いお昼寝から覚めたような、生まれ直したような、なんとも言えないスッキリした感覚になる。 そういったことの積み重ねが、私の硬直した脳をきっとほぐしてくれるだろう。 だから良い本と出会い、どっぷりと潜り込んで、文章の流れを止めていた石を早くどけたい。 ブルーレイが壊れたことは、幸いに思えた。 読書する私に、協力してくれているようで。
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