コバルトブルーの断崖

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 食欲は無かった。けれどせっかく用意されたものに手を付けないわけにもいかないから付け合わせのザワークラウトをちびちびと食べていた。 「無理をして食べる必要はない。明日の朝にでも食べたらいい」と、見かねた叔父はバゲットをちぎりながら言った。 「すみません」  叔父は黙々と食事を続け、カトラリーが立てる小さな音以外何もしない。  もう食べないのなら席を立とうか、いや、まだお互いの名前くらいしか知らないのだから、これからひと月お世話になる相手としてもう少し知っておきたい。この島の事、どうしてこの島で医者をしているのか、そして母の事。聞きたい事はたくさんあるけれど、最初はもっと何でもない話題にするべきか。  沈黙を破る言葉を考えているうちに食事を終えた叔父はナプキンで口元をぬぐった。 「明日からのことだが、夕食は俺が作るが朝と昼は適当に食べてくれ。あと自分の部屋の掃除と買い出しはお前にやってもらう。以上だ。……それと、体調が悪くなったらすぐに知らせるように」  叔父は自分の食器を下げるとすぐに出てしまった。ルイスは残った食事を冷蔵庫にしまって、薬を飲むためにグラスに水を注いだ。一人になって緊張がほぐれると自分がかなり疲れていることに気づいた。ふっと息をつく。  まだ8時にもならないが今日はシャワーを浴びたらベッドに入ろう。  そういえば買い物を頼まれたけれどこの島のこと何も聞いていなかった。来る途中には店もなければ人もほとんど見なかった。  慣れない硬さのベッドの上で今日の日を思い起こしながら、かすかに聞こえる波の音に耳を澄まして目を閉じた。  
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