コバルトブルーの断崖

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 ここがどこなのか思い出すのにほんの一瞬戸惑った。  薄青い部屋。  昨晩はカーテンを開けたままにしてしまっていたらしい。時計に目をやるとやはりまだ7時にもなっていなかった。まだ叔父も眠っているかもしれない。物音を立てて起こしてしまってはいけないし、もう一度眠ろうかと迷って、結局体を起こした。  服に着替えていると下の階から物音がするようになってきたから叔父も起きてきたのだろう。一階に一つしかない洗面所で顔を洗ってダイニングに入ると叔父がクロワッサンをかじりながら新聞を読んでいるところだった。部屋中にはコーヒーの香ばしい香りが漂っている。 「早いな。コーヒー飲むか?」 「いえ、苦いのは苦手で」 「カフェオレでも駄目か?島の牧場のミルクだから新鮮で美味いぞ。俺もブラックコーヒーはあんまり好きじゃなくてな」 「それでは一杯だけ」  夕食の残りをレンジで温めている間に作ってくれたカフェオレは、おかしな野菜のキャラクターがペイントされたマグカップに入れられていた。子供っぽさとは無縁のような叔父が、にんじんとトマトとなすびが手をつないでいるこのカップを選んでいる姿はちょっと想像できない。  恐る恐る口をつけてみると、不快な苦さはなく、まろやかでどこかカラメルのような味がして初めてコーヒーがおいしいと感じた。口の中に心地よい香りが残って叔父が勧める理由がよく分かった。 「すごくおいしいです。カフェオレってこんなにおいしいんですね」 「若い奴が楽しめる場所なんて何にもない島だ。せめて食事くらいは楽しんだらいい」 「ありがとうございます」  「俺はこれから診察室の方へ行く。今日のお前の仕事はこれだ」  渡された紙には、バゲット、卵、ホウレンソウ、チョコレートと癖のある字で書かれているのに対して島の地図は簡潔かつ分かりやすく書かれている。 「夕方6時までに買ってきてくれたらいい。それまでは好きに過ごせ」  あくびをしながら叔父は気だるげに診察室の方へと消えて行った。  久しぶりによく眠って、疲れが取れたのか慢性化していた胃の痛みもそれほど感じずにゆっくりと朝食を取りながら、もらったメモを見る。この家は島の北東に位置しているらしい。船着き場は島の東、そこから南へ行くとスーパーマーケットやパン屋があるらしい。地図には店の位置以外にも、(砂浜、景色がいい)(断崖、たまに鯨やイルカが見られる)(図書館、役場の建物の中に併設)というように島の中で楽しめそうな場所もいくつか記されている。  今日は天気もいいし、気分も悪くない。買い物がてら少し散歩してみるのもいいかもしれない。
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