コバルトブルーの断崖

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   灰色の雲が流れる空はロンドンと同じで、ここが異国だということを忘れさせる。そんな空を映した海はどんよりと重く、甲板に出ている客の姿はルイス以外になかった。  目的地である島へはフェリーで20分ほどだと聞いている。もうしばらくすれば見えてくるだろうか。このままどこにもたどり着かなければいいのにと、叶うはずもないことを思った。  寄宿学校へ入学してからというもの、何度か体調を壊してしまい、クリスマス休暇を目前に控えたころ、突如学校へと現れたヴィクトリアおばあさまによって、フランスでの療養を勧められた。  ここ数年はずいぶん症状も落ち着いているが、昔はよく喘息の発作を起していた。きっとまた再発したのかと心配したのだろう。でも自宅に連れて帰られるのなら理解できるけれど、外国に行くように言われるとは思っていなかった。  訳が分からずに聞いてみると、頻繁に連絡を取り合っているという母方の祖母であるシルヴェーヌおばあ様にも僕の近状を話したようで、叔父の暮らすフランスの島で療養してはどうかと提案されたらしい。  シルヴェーヌおばあ様の息子、つまり亡き母親の弟であるジャン=ポールは実家のあるオーストリアを離れて一人、ビスケー湾に浮かぶ島で暮らしているそうだ。自然豊かな場所だということに加えて、そこで医師をしているということもルイスを預けようと決めた大きな要因のようだ。  目まぐるしい速さで僕のフランス行きは確定してしまった。  叔父とは過去に一度しか会ったことがない、という。ルイスが生まれた時に来てくれたことがあるのよ、とヴィクトリアおばあ様が出発前に話してくれたのだが、会ったことがないのと同じだ。叔父としてもいきなり子供の面倒を見ろなんて迷惑な話にちがいない。不安要素は大いにあるが、一度思い立ったおばあさまを止めることは不可能だ。行動力とフットワークの軽さでおばあ様の右に出る人を見たことがない。  すでに手回しは済んでいたようだ。一足先にクリスマス休暇に入ることになった次の日には、大きなカバンを持って僕はヒースローにいた。  鈍色の中に緑が見えた。島はすぐそこだ、もうすぐ新しい生活が始まる。
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