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舞うように降る雪を、視点の定まらない目で見ていたと思ったら、その雪が降り積もって出来た世界を、やっぱりボンヤリと眺めていた。
「あの絵を思い出す」
ポツリと呟いた言葉が、ヒラリと雪のように舞った。
埋まるわけでも、ボコをつくるわけでも、溶けるでもなく、ただそこにヒラリと舞い落ちた。花びらみたいだ。白い花びら。溶けはしなかったけれど、同化するわけでもされるわけでもなく、けれど一目ではわからないくらい雪色の花びら。だから、わからなかった。君が何を言ったのか。君の言葉(思い)が。
巻き戻せたらいいのに。リモコンでピピっと。昨日録画した映画を思い出す。リモコンでピピっと。近い未来それは、「戻して」と、一言口にすればいいだけになるかもしれないと、君に向かって「何?」と聞きながら思う。
「戻して」「戻って」「最初に。10秒くらい。少しだけ」
テレビに向かって呟くわたしを思い浮かべる。君を思い浮かべる。友人を知人を、テレビ画面の向こう側の人の姿で想像する。
「え、何?」
同じ部屋にいたら、反応してしまいそうだ。テレビとわたし。ねぇ、今、どっちに言ったの?わたしよりもテレビに話しかける方が増えそうな君に、嫌な未来が過ぎる。今だって、君の瞳にわたしが映る時間はとても短い。言葉をかわす数さえ減ってしまいそうな未来に、文明の危機と変換しそうになる文明の利器。ぷくっと頬を膨らます。最近、そんなんばっかりだ。舞降る雪のように、わたしの中に降りつもる思い。でもそれはこの雪のように真っ白ではなくて、灰のような色をしている気がする。
「この前一緒に見た、真っ白な絵を、思い出した」
わたしは、今、君とは違う絵を思い出している、きっと。
君は、雪降る真っ白な絵。
わたしは、灰降る灰色の絵。
交換しようか、その絵を。
「わたしも思い出した。一緒に見た、灰色の絵」
文明の危機は、白を灰色にし、灰色を白にするだろうか。
文明の利器は、君の瞳に何を映すだろう。
「同じだね」
君は言った。
わたしは困った。
同じじゃないよ。
とは返せなかった。
だって、わからなかったから。
「同じだね」
君はもう一度言った。
口の端を柔らかく持ち上げ、ゆっくりわたしを見ながら、ゆっくりと、優しく。
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