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〇 朝霧希世
「希世。おまえ、学校卒業すんの?」
プライベートルームで、同じ歳の彰に聞かれた。
俺は朝霧希世、18歳。
桜花の高等部三年。
所属してるバンドDEEBEEが、二年前にデビューを果たした。
デビューをした時に三年だった詩生くんと映ちゃんは、ちゃんと卒業した。
が、まだ一年だった俺と彰には…
レコーディングもある。
ライヴもある。
単位を落とさないよう、登校とテストはしっかりやらなきゃいけない。
…正直きつかった。
彰の親はアバウトで。
「あ?学校?どうせおまえ勉強なんてしやしねえんだろ?辞めちまえ。」
…F'sのドラマー、浅香京介…
なんていい父親なんだ…
俺は、二年の途中で学校を辞めた彰が、羨ましくてたまらなかった。
「学校?もちろん卒業しろ。」
うちは…
ミュージシャン一家だと言うのに。
ギタリストの爺さんも、ドラマーの親父も。
口をそろえて卒業しろ。と言った。
意外と真面目だ。
「卒業しろってうるさく言われてる。」
無愛想に答えると、彰は…
「卒業しといた方がいいかもな…俺、中退って言ったら高原さんから、いきなりテスト用紙渡された。」
そう言って、うなだれた。
「…テスト用紙?」
「ああ。頭の悪い奴は嫌いだって言われて。」
「…マジ?」
「特に英語は喋れるようになれって言われて…結局俺、映ちゃんに習ってんだ。」
「……」
英語…
まあ、確かに…
このビートランドはアメリカにも事務所があって。
いつかはアメリカデビュー。が、ここに所属するアーティストの夢だったりもする。
ボーカルの詩生くんは、いつの間にか英語喋ってたし…
ベースの映ちゃんは、頭がいい事で有名。
英語のみならず、ドイツ語とかイタリア語も喋れるらしい。
「でも、それなら俺だって英語だけをやりたいよ。もう、学校で現国の時間とか眠くてさ…」
「分かる…無駄に睡魔を呼んでくれるよな。」
バンドの事だけを考えていられるなら、どんなに幸せだろう。
俺はそんな事を考えながら、彰が手にしてる単語帳を眺めた。
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