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「何難しい顔してんの。」  頬杖ついて外を眺めてると、背後から声がした。 「…テストが近いなーと思って。」  振り向かないまま、答える。 「あー、憂鬱だよねー。」  声の主は…沙也伽(さやか)。  同級生で、同じドラマーで。  知らない奴はいないほど、この街の者なら一度は行った事がある店『ダリア』の娘。  その昔、うちのじいさんはダリアでライヴをして、アメリカの事務所への足掛かりができたと言っていた。 「…紅美(くみ)がいないから、余計辛いとこだな。」  小さくつぶやくと。 「…んとにね…」  沙也伽は俺の前の席に座って、同じような体勢になった。  紅美は体調不良で休学中。  …って事になってるけど。  行方不明。  家出らしい。  紅美にベッタリだった、うちの弟の沙都は血眼んなって探してるけど…  今も見つからない。 「テストの時は紅美におんぶに抱っこだったからなー…テスト範囲、丸写しするしかないなこりゃ…」  沙也伽は気の抜けた声。 「…大丈夫か?」 「何が。」 「いや、おまえ…紅美以外に友達いないし。」 「だから希世んとこ来てるんじゃん。」 「紅美の代わりか。」 「あんたも一人でいるクセに。」  彰が中退して、一人でいる事が増えた。  あれから一年…  俺、一年も…ぼっちだったのか。  ま、浮いてるしな。  正直、俺はモテる。  一人で歩いてると、後ろについて来る女が数人いる。  が、誰も声はかけて来ない。  声をかけてくれりゃ、すぐに何かが始まるのにな。  それほど、俺は今…  寂しい。 「ねえ、帰りに音楽屋寄らない?」  何だよ。  一緒に帰る気かよ。  沙也伽と一緒にいたら、他の子が声かけにくいじゃん。  そんな事を考えながらも。  沙也伽とは馬が合う。 「…おし。ついでにおまえんちでアイスな。」 「ちゃんと客として来てよ?」 「おまえスネア買ったっつってたじゃん。見せてくれよ。」 「あ、いいよ。」  こんな感じで。  気が付いたら、俺は毎日沙也伽といるようになった。  周りからは、俺達は付き合ってるように見えたかもしれないけど…  俺には、どうこうなろうとは考えてないけど…  好きな女がいる。
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