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 〇宇野沙也伽  あたしの名前は宇野沙也伽。  桜花の高等部三年、18歳。  親友は二階堂紅美っていう、長身のかっちょいい女。  紅美とは家は離れてるけど、幼馴染みたいなもん。  あたしの家は『ダリア』っていうカフェ。  以前は、昼間はカフェで夜はライヴハウスって展開だったみたいだけど、今はカフェのみ。  あ、夜だけアルコールも出る。  ライヴハウスは、二軒隣にお引越し。  本腰入れて、ライヴハウスだけの『Dahlia』が始まってる。 『あの世界のDeep Redも、ガンガンに出演してくれてたんだぞ。』  が、あたしの伯父さんの口グセ。  その流れでなのか、うちの店にはバンドマンがよく出入りしてるらしい。  いくつの時だったかなー。  初めて紅美と会った時は衝撃だったなー。  同じ歳とは思わなかった。  だって、すごく背は高いし…シュッとしててカッコ良かったし…  柔道の帰りだとかって、道着持ってたっけ。  若くてカッコいいお父さんと一緒に来た。  あたしはと言うと、父親が50歳の時に生まれたもんだから…  溺愛された。  二つ年上の兄貴も、かなりの可愛がられようだったらしいけど。  あたしの比じゃないと思う。  そんな溺愛されてたあたしは、白とピンクのフリフリな服に。  頭にはでっかいリボンがついてた気がする。  そんなあたしと。  あんなカッコいい紅美が。  同じ歳。  あたしは、その場で服を脱ぎたくなったのを覚えてる。  部屋に来ない?って誘ったのは、紅美が初めてスカートをはいて来た日だった。  すらりと伸びた足。  あたしは紅美を、同じ人間として見てなかったと思う。  なんなら少し好きになってたとも思う。  その気はないけど、とにかく紅美を独占したくなった。  近所の幼稚園から小学校へ行ってたあたしとは違って、紅美はエスカレーター式の桜花。  あたしはせめて中等部からでもそこに行きたくて、猛勉強をした。  どうしても、紅美と同じ所に通いたかった。  二つ上の兄貴も、中等部から桜花に行った。  それを出せば、父親も反対は出来なかった。  その頃には、ヒラヒラの服も着なかったし、リボンもつけてなかった。  それまでは親の好みに任せてたけど、自分の好みを主張するようになると、父親はあからさまにガッカリしたけど。  すでにモデルとして活躍してた兄貴が。 「沙也伽は飾りっ気ない方が可愛い。」  って言ってくれたおかげで、父親も諦めてくれた。  桜花の中等部に合格して、その喜びを伝えようと紅美の家に初めて行った。  そこで…あたしはまたまた衝撃を受けた。  外人みたいな可愛い顔した小僧が…紅美にベッタリしてる。  わなわなと震えた。  口には出さなかったけど、あんた誰!!って思ってた。 「こいつ、○○、あたしらよりいっこ下。」  紅美に紹介されたけど、名前なんか耳に入らなかった。  とにかく…美形の小僧が…紅美にまとわりついてるのが許せなかった。  紅美の部屋は、12歳の女の子の部屋とは思えないほど、シンプルでカッコ良かった。  少し…兄貴の部屋に似てると思った。  唯一違うのは… 「紅美ちゃん、ギター弾いてるの?」  店で見慣れてる、ギターがあった。 「うん。」 「カッコいいなあ…」 「ちなみに、○○はベース弾いてんの。」  むっ。  やるな?外人小僧。 「あたしは…ドラムを始めるつもりなんだ。」  そんな気はなかったけど、紅美に近付きたい一心で、そう言った。  すると… 「ほんと!?沙也伽ちゃん、女の子なのにドラムすんの!?じゃ、バンド組もうよ!!」  今までこんなに興奮した紅美は見た事ない。ってぐらい…  あたしの手を持って、紅美ははしゃいだ。  そりゃあ…  始めちゃうよね…  かくして。  あたしは店に来るバンドマン達にドラムの手解きをしてもらい。  わりと…才能はあったのか。  すぐに基本パターンはクリアした。  …うん。  ドラムっておもしろい。  こうして…あたしのドラム人生が始まった。  バンド名は、英和辞書をベッドの上に落として、開いたページの左側の一番上。って決めて紅美と二人でやった。 「DANGER…危険だって。」 「ふーん。いいんじゃない?」  中等部に入ると、あたしは毎日紅美と一緒にいた。  って言っても…学校にいる間は。  あたしは、無理を言って桜花に入れてもらったから。  学校が終わるとすぐに帰って、店の手伝いをしなきゃならない。  部活は一応、美術部に籍を置いた。  幻みたいな部だって聞いて、それにした。  紅美はあちこちのクラブから誘われてたけど。 「練習に出れないから無理でーす。」  って、どれも断ってた。  まあ、そうだよね。  紅美は今、結構マジでギターの練習してるし。  そんなわけで、紅美も籍だけは美術部だった。  バンド名も決まった。  メンバーもいる。  曲作って、練習したいよね。  コピーとか、頭になかった。  いきなり、オリジナル志向。  ドラムが本格的に楽しくなってきたあたしは、紅美を独占したい気持ちも薄らいで来て。  休みの日に、紅美が沙都(名前覚えた)と二人きりだったって聞いても妬かなくなった。
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