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 〇二階堂紅美 「おはよー。」  ドアを開けると、ニコニコした沙都が立ってた。 「…何?」 「え?朝ごはん食べようよ。」  沙都は満面の笑みで、手に持ってる食糧らしき物が入ってる紙袋を見せる。 「自分とこで作んなよ…ふぁ…」  あたしはあくびをしながら、頭をガシガシと掻いた。 「えー。だって、ノンくんまだ寝てるし…」 「…あたしも寝てた。」 「沙也伽ちゃんは?」 「走りに行ってるんじゃない?」 「そっか。お邪魔しまーす。」  沙都はあたしについて入って来ると、テーブルに食材を並べて。  楽しそうにキッチンで料理を始めた。  あたし達DANGERは、このたび…四人そろって渡米した。  アメリカデビュー。  これが…あたし達に課せられた難題。  でも、絶対叶えてみせる。  渡米にあたって、あたし達には男女二人ずつに分かれての部屋が用意されてた。  これ、昔テレビで見た事あるなー。って思った。 『フレンズ』って海外ドラマ。  あれみたいな感じ。  ドア開けると、もういきなりキッチンとリビングが広がってて。  その奥に、あたしと沙也伽の個室がある。  お風呂とトイレもあって、日当たりのいいベランダもある。  階段を上がって、通路を挟んだお向かいの、同じ間取りに住んでる沙都とノンくんは。  なんだかんだと理由をつけては、寝る時以外はうちのリビングにいる。  …うっかり裸で歩けやしない… 「あたし、もうちょっと寝る。」 「えーっ!!一緒に食べようよ!!」 「…睡眠欲の勝ち。じゃ。」  パタン  沙都の可愛い声を無視して。  あたしはベッドに沈み込んだ。  ほぼ共同生活をする事になったわけだし。  約束事を作った。 『個室には、人を入れない、入らない』  標語みたいだ。  忘れ物を取りに行くとか、寝込んだ時の様子見とか、そういう特例以外では絶対守るって事で。  まあ…重要なのは、それぐらいかな。  渡米して二週間。  今の所…ドアの前で拗ねたような顔をするものの…沙都は我慢しまくっている。  アメリカ…  海くんのいる…アメリカ。  それだけで…あたしの気持ちは浮足立ってる気がする。  わっちゃんに…伝えてもらったから、あたしが渡米した事は知ってるはずだけど…きっと、海くんはあたしを避ける。  だから、偶然会うなんて事もあり得ないと思う。  …あたしから、動かない限りは。 「それにしても、きれいだったよね。沙也伽ちゃん。」 「沙都、欲しい物があっても自分で買うのよ?」 「もー…そんなんじゃないのに…」 「だったら、もうやめて。結婚式から二ヶ月は経ってんのに。」  ジョギングから帰って来た沙也伽に起こされて。  まだ30分は寝れるのに…なんて思いながら、テーブルについた。  沙都は、ちゃんと四人分の朝食を用意してくれてて。  あたし同様、寝てたはずのノンくんは… 「うん。美味い。沙都、腕あげたな。」  寝起きとは思えない、スッキリした顔で食べながら…沙都を褒めた。 「え?ほんと?」 「ああ。オムレツの焼き加減、サイコー。」 「嬉しいな~。もっとレシピ増やせるよう、頑張ろっと。」  そんな沙都とノンくんを見て。 「……」  あれ、おだててやらせちゃうやつだよね。 「……」  ノンくん、策略家。てか、鬼。 「……」  沙都単純過ぎ。 「……」  間違いない。  沙也伽と、目でそんな会話を…してるのかどうか分からないけど。  とにかく、顔を見合わせた。 「ごちそうさま。沙都、ありがと。美味しかった。」  そう言いながら立ち上がって、食器をシンクに運ぶ。  料理は当番制なはずなのに…気が付いたら沙都が一番頑張ってて、次が…やっぱ沙也伽かな。  あたしとノンくんは、のらりくらりと二人がしてくれるのを待ってる感じ…  その分、洗い物はするけどね…。 「さ、今日も張り切って行こー。」  アメリカに来て…沙都は、やたら元気だ。  それはまるで、あたしに、海くんの事を考えさせまいとしているのかと思うほど。  あたしのそばにいて、音楽以外の事も話して。  常に…あたしを笑顔にさせたがる。  沙都は可愛い。  本当に。  癒される。 「紅美、ソロの所のバッキング、パターン変えてくんないか。」 「うん。分かった。」  ノンくんは…常に音楽の話をする。  プライベートな事は、ほぼ話さない。  特に…こっちに来てからは。  このバンドの中で、ノンくんだけが何も知らない。  だから、あたしにとっては…それが反対にホッとできたりもする。  多少なりとも…沙也伽と沙都は過敏になってるけど。  ノンくんには、それがない。  以前、海くんとバッタリ出会ってしまってたような場所へも、平気でランチに誘う。  …楽だ。 「紅美、今日の帰りさ、ちょっと女子だけでお茶しない?」 「え?ああ…いいよ。」  沙也伽は…感動の結婚式からこっち。  本当に毎日、家に電話をしている。  その幸せそうな顔を見てると…本当、こっちも温かい気持ちになる。  希世と怪しいとは思ってたけど、まさか結婚に至るとは思わなかった。  あ、その前に妊娠か。  …妊娠…か。  海くんは、あたしの妊娠を知らなかった。  伝える前に…朝子ちゃんが海くんをかばって怪我をして。  海くんは…朝子ちゃんを選ぶ決断をした。  あたしは別れるのが嫌で…ヘヴンで知り合ったマキちゃんちに逃げて…  流産。  …隠してたつもりなのに…海くんにバレて…  手を握って泣かれた…。  胸が痛かった。  あの時…海くん、すごく葛藤したと思う。  責任だって…感じたと思う。  だけど、あの時一番ショックだったのは… 『朝子には…一人で立ち直れるほどの強さがない』  海くんに、あたしは強い女だって思われてた事かもしれない。
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