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 〇朝霧沙也伽 「今夜、ここでパーティーがあるんだってさ。」  旅二日目。  あたし達はこのホテルが気に入って、ちゃっかり二泊目もここで。って決めてしまった。  先生、無理言ってごめんね♡  いいコネ持っててくれて、ありがとう♡ 「曽根さん、どこからそんな情報を?」  夕べは一人だけ早く寝てしまって、先生と沙都とノンくんが酒盛りしたという話を聞き、泣くほど残念がってたらしい曽根さん。 「スパでセレブ達が話してた。」 「なんだ。セレブしか入れないやつか。」 「ここの利用客なら入れるらしいぜ。」 「え、マジ?行ってみたい。」  みんなで盛り上がってると。 「ドレスコードがあるんじゃないか?」  先生…冷静ですね。 「そっか…そうだよね。あたし、ドレスなんて持って来てないよ。」 「て言うか、持ってないしね。」  あたしと紅美が顔を見合わせてると。 「俺達だってスーツなんてないぜ。」  ノンくんが、曽根さんと『な』って顔を見合わせてる。  先生は…たぶん、持って来ちゃってるんだろうね。  何かあった時のために、的な。  でも、黒ずくめはいただけないよ?  沙都も当然持ってるはずがなくて。  あたし達は渋々諦めようとしたんだけど… 「レンタルしてくれるってさ。」  こういう行動力は人一倍?な、曽根さんが。  フロントに問い合わせてくれた答えがそれだった。  そんなわけで、あたし達六人はブランチの後でドレス選びに向かった。  今日は特に予定も決めてなかったけど、この後で時間があれば、近くにある美術館にでも行ってみようかってぐらい。  当然だけど、男性陣とは部屋が違った。  あたしと紅美は、そのドレスの多さにキャーキャー言いながら試着。  うーん!!楽しい!!  結婚式の時は、もうドレスが用意されてたから…  いや、あれはすごくいいドレスだったけどさ。  だけど、色々着てみたいもんじゃん?  これは単なるイブニングドレスだけど…  それでも、普段着る機会なんてないし。 「うわー、紅美…あんた…綺麗だわ。」  あたしが口を開けて言うと。 「何それ。何も出ないよ?」  紅美は苦笑いしながら、鏡の前で自分の姿をチェックした。  いやホント…綺麗だよ…  女のあたしでも見惚れたわ。  …こりゃ、マズイんじゃないの?  紅美の髪の毛は、いいぐらいに肩まで伸びてて。  それをアップすると、細くて長い首がにゅっと見えて…  うん…うなじとかセクシーだなあ…  同じ女なのに…神様、不公平だよ、あんた。  紅美は名前にあるように…深紅のドレスにした。  あたしは、黒にしようと思ってたのに、紅美がまさかなグリーンのドレスを持って来て。 「絶対沙也伽これ。」  って… 「カメレオンですかあたし!!」  って大笑いしながら受け取ったものの… 「…カメレオンだねあたし。」  似合った。  ドレスを選んだ後、街に繰り出した。  美術館に行って、それから少し郊外にまで足を伸ばした。  先生は仕事で来た事があるとかで、その辺の道にも詳しかった。  すごいなあ…。  何だかよく分かんないけど、晴れた日には絶景が見えるという谷に行ってみたけど、残念ながら雨男の曽根さんのせいで、天気はイマイチだった。 「俺のせいかよ!!」  って曽根さんは言ったけど。  雨が降らないだけ良かったよ…  非力な雨男。 『入っていいか?』  帰ってドレスに着替えてると、ドアの外からノンくんの声。 「えっ、何しに来たのよ。」 『品定め。』 「何それ。要らない。帰ってー。」 『嘘だよ。髪の毛セットしてやるから入れろ。』  …この男は…  ほんと、どこまでも器用だ。  ドアを開けると… 「はっ…」 「何だよ。」 「いや…ノンくん、男前だよ…」  スーツ姿のノンくん…いや~…これ、本気でカッコいいやつだ!!  あたし、紅美の女具合に見惚れてたけど…  これは…  男性陣も楽しみ!! 「紅美は。」 「今シャワー中。」 「じゃ、先に沙也伽やっとこ。ほら、座れ。」  言われた通り、ドレッサーの前に座る。 「…それにしても、聞いてたけど珍しい色選んだな。」  ノンくんが、あたしを見下ろして言った。 「紅美が選んだの。」 「じゃ間違いねーな。」 「そう?」 「紅美、おまえの事大好きだからなー。」 「……」  ノンくん…  本当は、紅美の事…大好きなのに。  なんで我慢してんの?  こうやって、普通の顔して。  あたしにも紅美にも、同じぐらい優しくするなんてさ…  バカだよ。 「えっ、何それ。作ったの?」  あたしの髪の毛をクルクルと巻いたりピンで留めたりして。 「谷に行った時、紅美からドレスの色聞いてたから。」  そう言って、ノンくんはあたしの髪の毛に、アイビーで作った髪飾りをつけた。 「…ギタリストにしておくのがもったいない。」 「…不本意だが、褒め言葉として受け取ってやる。」  いやー…  本当…こんなに器用なのに。  恋には不器用なんて…残念過ぎる… 「あっ、紅美が裸で出て来ちゃう。言わなきゃ。」  あたしがバスルームに向かおうとすると。 「俺はそれでも構わねーけどな。」  ニヤニヤなノンくん。  …はあ。  あんた、覚えてないからだろうけど…  あたしには、何言っても空しく聞こえるよ…  あの酔い潰れた日…  ノンくん…あんた… 「あー、サッパリした。」 「あ。」 「お。」 「……えっ。」  言いに行くのが遅かった。  紅美は裸でバスルームから出て来て。 「なんっ…なんでここにいるのよーーーーっ!!」  ノンくんに、その辺にある物全部を投げつけた。
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