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 〇二階堂紅美 「ったく…」  ノンくんはブツブツ言いながら、あたしの髪の毛を梳いている。 「…だって、居るから…」 「頭にはタオル巻いてんのに、何で体には何も巻かないかな。」  準備万端な沙也伽は、そう言って笑った。 「沙也伽だって、裸で出てくるじゃない。」 「まあ、そうだけど。」  …そりゃあ…  ノンくんには…何度も裸を見られた。  事も、ある。  でも…あの時と今じゃ、状況が… 「もう少し上向け。」  後ろから顎を持たれて、少し汗をかきそうになった。  ああ…早く終わらないかな… 「よし。終わり。」  あたしの髪の毛には…  深紅のミニバラの髪飾り。 「…ありがと。」  お礼を言って、立ち上がる。 「…いつにも増して大きいな。」 「ヒールあるから。」  180cmぐらいかな。 「でも、ノンくん並んでて違和感ないよ。」  沙也伽にしてみれば…何の気なしに出た言葉なんだろうけど。 「…ま、沙都が一番釣り合うな。あいつ余裕ででけーし。」  ノンくんはそう言って、ドアに向かった。 「じゃ、7時にな。」 「はーい。ありがとー。」  沙也伽が手を振る。  あたしは…何だか力が抜けちゃって。  そのまま、ベッドに座った。 「…どした?ん?」  それに気付いた沙也伽が、あたしの隣に座る。 「……」  大きく溜息をつくと。 「…ノンくんと沙都の間で揺れてんの?」  沙也伽は、足をぶらぶらさせながら、あたしの顔を覗き込んだ。 「…分かんない。」 「分かんないとは?」 「自分の気持ち。」 「ほう。」 「…もう、しばらく恋はいいって思ってたのに…」  頭を抱えそうになって…耐える。  せっかくセットしてもらった髪の毛、くしゃくしゃにはしたくない。 「…そうだよね。みんないい男だし、みんなダメ男だもんね。」  沙也伽の言葉に小さく笑う。  もう、バレバレだよね… 「いい男で、ダメ男なの?」 「そうじゃない?可愛いけど頼りないのとか、器用なんだけど不器用なのとか、大人なのに今頃青春なのとか。」 「…海くんも入れるの?」 「入っていいんじゃない?」 「……」 「紅美。」  沙也伽はあたしとの距離を少し詰めると。 「よく分かんないけどさ…三人とも好きなら、それでいいんじゃない?」  眉間にしわを寄せて言った。 「…え?」  今、沙也伽…  問題あるような事…言ったような… 「好きなら三人好きでいいんだよ。誰とも仲良くして、抱き合ったりキスしたりすればいいじゃん。」 「な…何言ってんの?三股しろって事?」 「うーん。おおまかに言うと、そうね。」 「……」  口を開けたまま、沙也伽を見つめた。 「だって、紅美は結婚してるわけじゃないんだから、恋愛は自由だよ。」 「…自由って言っても、三股なんてほどがあるわ。」 「そうかな。だって、付き合ってみなきゃ分かんない面もあるわけでしょ?上辺だけじゃ知れない事とかさ。」 「そうだけど…」  でも。  あたしは…  もう、だいたい知ってるよ、沙也伽。  ごめん。  ノンくんとの事は、話せなくて。  でも、なんとなーく…バレてるよね? 「誰か一人にしなきゃ。って考え過ぎるから、分かんなくなるのよ。」 「……」  何だろ。  この…妙に説得力のある言葉。 「真正面からだけじゃなくて、側面から見てみると違ったりするじゃん?」 「…側面…」 「今誰かが一歩リードしてるとしてもさ、そいつを正面から見るなら、別の人を側面とか裏側から見たり。」 「…よく分かんないような…分かるような…」 「ま、とにかくさ。」  沙也伽は立ち上がって髪の毛のアイビーを指で触れると。 「迷ってる間は、決めるなって事なのよ。」  あたしの正面に立って。 「じっくり品定めしちゃいな。」  あたしの顎に、指を立てて言った。
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