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 〇二階堂紅美  あたしが『好き』って言って。  沙都は…唇をあたしに届かせなかった。  丸い目をして驚いた顔して。  そのままそれは…戸惑った顔になった。 「…どうして…驚いてるの?」 「え…あ、ううん…まさか僕の事…紅美ちゃんが僕の事、好きだなんて…」  しどろもどろな沙都。 「あたし、沙都の事どうでもいいなんて思って寝ないよ。」  あたしの口調は、少しきつかったかもしれない。  どうして?  沙都、あたしの事…好きって言ったよね?  なのに、なんであたしが好きって言ったら、こんなに…  ドン引きみたいな顔になるの?  悲しくなった。  まるで沙都は。  本当に雰囲気に流されて、そのままセックスしたと思ってたんだ? 「ごめん…なんか…紅美ちゃんは僕なんかより、海くんやノンくんの事…って思ってたから…」 「……」  そりゃあ…  ずっと海くんを引きずったり、ノンくんに揺れたり…したけどさ。  …そっか。  気の多いあたしが悪いんだ。  だけど…  やっと沙都の事、好きって…  好きって言えたのに…  唇を噛みしめて、うつむいた。  今まで…今まで沙都は、あたしに好き好きって言ってたけど。  それで満足してたの?  あたしの気持ちは欲しくなかったの?  聞きたいのに…  言葉が出ない。  好きって言って、キスをやめられたのが…ショックだった。 「…ごめん…紅美ちゃん…」  あたしの肩に手を掛けて、沙都が謝る。 「…何で謝るの。沙都の気持ちは嘘だったって事?」  あたしは沙都の顔が見れなくて、沙都とは反対側を向いて…そっけなく言った。 「そんな事…僕は紅美ちゃんが好きだよ。好きだけど…」 「好きだけど…何?」 「…本当に、紅美ちゃん、僕を好き?海くんより?ノンくんより?」  沙都の聞き方が気に入らなくて。  あたしは言葉じゃなく、頷いた。  だけど…沙都は無反応。 「…寒い。中入る。」  あたしがそう言って沙都の手を外すと。 「紅美ちゃん。」  沙都はあたしの手を取って。 「…嬉しい…よ。紅美ちゃんが、僕の事…好きって思ってくれて。」  そう言ったけど…  あたしは、やっと。  沙都の目を見た。  嬉しい…よ。  本当?沙都。  あんたの目。  なんで怯えてんの? 「…言わなきゃ良かった。」  沙都の目を見てそう言って、あたしは沙都より先に中に入った。  そして… 「わー、何これ。見た事ない。」  美味しそうな物をお皿に取ってる沙也伽に、後ろから抱きつく。 「うわっ…何、もう。ビックリした。」 「美味しそう。いただきっ。」 「もっ…もー、あんた、綺麗なカッコしてんのに、そんなのやめてよ。」 「ふふっ。んー、んまっ。」 「紅美ちゃんには色気より食い気…と。」 「うるさい、曽根。」 「あっ!!なんで呼び捨てだよ!!」 「ノンくんのモノマネ。似てなかった?」 「…クオリティ低いな…」  あたしは…さっきの沙都を忘れたくて。  自分の告白を帳消しにしたくて。  笑った。  必要以上に…  笑った。
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