9

15/17
前へ
/169ページ
次へ
 〇桐生院華音 「俺を甘く見るなよ。紅美を悲しませる奴は許さない。」  海の言葉に、部屋の中は静まり返ったが…  俺はつい… 「…ふ…ふはははははは!!」  笑ってしまった。  ついこの間まで。  自分の気持ちを押し殺してた奴が。  紅美に目を付けてたとか。  保健室で寝てる紅美にキスしたとか。  笑えるぜ!!海!!  ここに来てのカミングアウト!!  パーティーの途中。  いい雰囲気で紅美の腰を抱き寄せて、バルコニーに出た沙都。  だが、やがて二人は対照的な表情で戻って来た。  まずは紅美が。  変なテンションの高さで。  そして沙都が。  どう見ても失敗した。って顔をしてた。  ま、沙都が何か言ったのか言わなかったのか…  それで紅美は、へこんでおかしなテンションになってた、と。 「キ…キリ?」 「いやー…海、おまえかっけーわ。」  ベッドの上から、海にグラスを上げる。 「けど、おまえも散々紅美を泣かせただろーが。」  枕を投げる。  すると海はその枕を投げ返して。 「ああ、そうだな。泣かせたからこそ、棚に上げて言わせてもらう。」  ほお…  気持ちいいほどの開き直りっぷりだ。  見事だぞ。海。 「あたしさ。」  突然、床に座ってた紅美が立ちあがった。 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」  みんなが、紅美を見る。  すると… 「あたし…」  紅美は少し下唇を突きだして。 「あたし、みんなが好き。」  カクッ  つい、ベッドの上で肩を崩す。 「みんなが好き。だーい好き。同じぐらい好き。誰が特別とかない。」  …そう言いながら、紅美の口元は…今にも泣きそうに震えている。 「…まいったな…あたし、気が多くて…」 「紅美。」  座ったままの沙也伽が、紅美の手を取る。 「いーのいーの。みんなを好きなままでいーの。」  沙也伽がそう言って紅美の手を引っ張ると、紅美はゆっくりと…座った。 「…悪かった。大人げないな。」  海がそう言って頭を下げると。 「ううん。先生のカミングアウト、衝撃的で面白かった。もっと何か打ち明けてよ。」  沙也伽は真顔で言った。 「もっと?」 「うん。」  海と沙也伽は…何か目で訴え合ってるかのようで。  それは… 「そーだなー…紅美が二回目の三年の時に…」 「ちょちょちょっとぉ!!海くん!!何告白してんのーっ!!」  紅美がすごい勢いで手元にあったスナック菓子の袋を投げた。 「ははっ。沙也伽のリクエストに」 「応えなくていいー!!」 「でも今となってはだし、いいだろ?温泉の…」 「わー!!もうバカー!!」  紅美は走って海の座ってるソファーに行くと。 「ぐわっ!!」  有段者のはずの海の首に手を掛けて、向こうの部屋のベッドの上に投げ飛ばしたかと思うと。 「アレはダメ!!アレ言ったら、海くんのアレ言うよ!?」  そう言いながら…プロレス技をかけた。 「ア…アレって何だよ…っ…あててててて!!」 「あ…アレはアレだよ…」 「何…」  耳元で、コソコソと囁き合う二人… 「…あ、それは言ってもいい。」 「えっ!!大問題じゃなかったの!?」 「別に、今となってはだし。それに、それ言ったらおまえが…」 「はっ…やっぱダメ!!何も言わないから海くんもリクエストに応えないでー!!」 「あいててててて!!分かった!!言わない!!あーーー!!やめろ!!紅美!!」  ……その光景は…  もめてもめて別れた二人とは思えないぐらいで。  俺としては、微笑ましかったが。  約一名。  かなり…憤慨してる奴がいた。  …沙都。  おまえ…  紅美に、あの事話したのか…?
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加