10

1/3
前へ
/169ページ
次へ

10

 〇朝霧沙也伽 「すごーい。」  あたしはそれのきれいさに、口を開けて見入った。  それ。  クリスマスツリー。  今日はクリスマスイヴ。  先生が富樫さんって部下(ライヴにも来てくれてたっけ)を呼んで、七人でクリスマスパーティー開催予定。  そして、この宴を最後に…あたし達は、明日帰国する。  ああ…なんか寂しいな。  希世や廉斗に会えるのは嬉しいけど。  だけど、こっちで過ごした一年と少しが濃すぎて…  泣いちゃいそうだ。 「綺麗だろ。俺と沙都で頑張った。」  ノンくんはそう言って、沙都と自慢げに肩を組んだ。  今日、四人で事務所に挨拶に行った後、あたしと紅美は二人で買い物に行った。  明日帰国するのに今更だけど、日本の家族にお土産や、こっちで食べて美味しかった物を自分のために買った。  それらをアパートに持ち帰って梱包なんかして、男どもの家に。  その間に沙都とノンくんは帰って料理したり飾り付けをしてくれたみたい。  あたし達が帰国したら一人になる先生。  寂しくならないかな。と思って、ツリーの事は言えなかったんだけど… 「海くん、僕らが帰ってもここに住むんだってね。」 「ああ。愛着が湧いたからって言ってた。」 「一人には広すぎるよなあ。」 「じゃあ曽根、おまえ残れ。」 「何言ってんだよー!!」  まだ居る曽根さん。  最初は一ヶ月って言ってたのに、結局あたし達の帰国に合わせて二ヶ月居た。  …仕事はいいのかい? 「こんな立派なツリー、見た事ないよ。」  あたしは、ちょっと感動してた。  これって、もろにオリジナルだよね。  オーナメントはキラキラのアレじゃなくて…  ノンくんがすっかり馴染みになってる花屋さんで、原価同然でもらってるという色んな花が、小さなリースになっていくつも飾られてて。  そのリースの中に、ワイヤーでみんなの名前が作ってある。  もう…  どれだけ器用な男なの…  ノンくんが作ったと思うと、ちょっと…アレだけど…  まあ、あたし達は、もう慣れてるけど…  そうこうしてると、先生が富樫さんを連れて帰って来て。 「お邪魔します。これ、みなさんでどうぞ。」  富樫さんは、手に持ったたくさんの飲み物を差し出した。 「おっ、サンキュー。」  ノンくん…  あなた、友達ですか…  先生もツリーの飾りをすごく気に入って。  ノンくんにどうやったら保存できるか。なんて、保存方法を習ってた。  あの旅以降、紅美と沙都はちゃんと恋人同士みたいになってて。  だけどみんな変わらない態度で。  それが…すこぐ居心地良かった。  あたしには昔から友達って言ったら…  紅美と沙都。  もろにバンドメンバーしかいなくて。  沙都は義弟になって。  ノンくんは、友達って言うのとは違ってたけど…このアメリカ滞在で、友達になったなって思う。  あ、あと曽根さんも。ついでに。 「写真撮ろうぜ。」  ノンくんがそう言って。  富樫さんが撮影係を買って出てくれた。  ツリーの前で、あたし達六人は肩を組んで。  何だか…すごく幸せだった。  学生時代でも、こんな友情のある時間ってなかった。  希世と廉斗と過ごす時間とは違う。  あたしの…青春の1ページって感じで… 「それ、あたしにもちょうだい。」  ノンくんのスマホを覗いて言うと。 「おう。」  すぐに送ってくれて。  あたしは…それをホーム画面に設定した。 「…いいのかよ。家族のじゃなくて。」  ノンくんが覗き込んだけど。 「家族のはロック画面に設定してるもん。」  あたしは得意げにそう言った。  ああ…  アメリカでデビューして。  CDもそこそこに売れて。  あたし達DANGERは…  次は…  どうなるのかな。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加