10

3/3
前へ
/169ページ
次へ
 〇二階堂 海 「……」  みんなを見送って家に帰ると。  その広さに…その静寂さに、小さく溜息が出た。  二ヶ月…  たった二ヶ月だったのか。と思わせられるぐらい、濃い日々だった。  紅美と終わらせて…  きっと紅美は華音と始まるだろう。  そう思っていた矢先…  始まったのは、とんでもない事だった。  俺と、華音と沙都のシェアハウス。  そこへトシも入って…  男四人での二ヶ月間は。  俺の人生の中で、最もあり得なく最も忘れがたい二ヶ月となった。  …早乙女さんを父と呼べるようになった。  ずっと自分の存在を不確かに思えていた俺は…  あの人が、俺を愛してくれていると認識する事ができて…  何か…ずっと抱えてた呪縛から解き放たれた気がした。  …俺の生まれた時の体重が、暗証番号だなんて…  今思い出しても、胸の奥がくすぐったい気がする。  良く思われてない…なんて、勝手に被害妄想して。  とことん自分で首を絞めていたな…。  ソファーに座って、ツリーを眺める。  華音の作った名前入りのリース。  写真立てとスマホに、みんなで撮った写真。  紅美と沙都は恋人同士になった。  それでも…俺は今も紅美を好きで。  華音が選ばれなかったのは…少し残念にも思うが。  …紅美が。  幸せなら、それでいい。  写真の中。  紅美も沙都も…  華音もトシも沙也伽も…俺も。  みんな笑顔だ。  この家で暮らしていた、俺の…祖父にあたる浅井 晋さん。  先代がずっと悔いていた、あの事件で亡くなった丹野 廉さん。  そして…さくらさん。  三人が笑って過ごしていたであろうこの場所で。  俺も…笑えた。  そして、色んな鎖を断ち切れて…解放された。  一人では広すぎるとみんなに言われたが…  愛着があり過ぎて、離れられない。  いつか、と思う。  また…いつか。  みんながこっちに来た時に。  懐かしい。と笑い合いながら、ここに集まれば、と。  そのためにも…  俺は、オンとオフをしっかり使い分けて。  ちゃんとここに戻ってくる。と、集中して仕事をする。  そして…  二階堂を変えるために。  二階堂のみんなの将来を変えるために。  生きる。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加