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〇朝霧沙也伽
「紅美と沙都?」
「うん。」
「……」
「驚いたでしょ。」
「ああ……って、驚かねーっつーの。」
あたしは帰国してすぐ、希世に沙都と紅美の事を話した。
ビックリするだろうと思ったけど…
希世は全然驚かなかった…!!
なんでー!?
あたし、大スクープって思ってたのに!!
「だいたい、俺、ずーっと紅美と沙都は付き合い続けてるんだと思ってたし。何、あいつら途中別れてたんだ?」
…あ。
そっか。
そうだよね。
紅美が先生と何かあったとか。
ノンくんが参戦して、三人が紅美を奪い合ったとか。
そんなの…誰も知らないよね…!!
あー!!なんだ!!
つまんなーい!!
みんなに言っちゃえば良かったよ!!
「それより…頑張ったな、沙也伽。」
希世は突然…真顔。
「…え?」
「アメリカデビューなんてさ…なかなかできるもんじゃないぜ?」
「……希世。」
そうだ…
あたし、旦那を差し置いてアメリカデビューだよ。
しかも…
希世のバンドは、その間に…メンバー交代を余儀なくされる事態に。
「…DEEBEE、大丈夫?」
少し遠慮がちに問いかけると。
「平気平気。一人抜けたぐらいで潰れやしないさ。」
希世はのんきそうに言ったけど…
でも、辛いよね…
ずっと、辛い時期も一緒に乗り越えてきたメンバーだもん…
「でも…少し堪えた…。」
珍しく…希世が弱音を言った。
あたしは希世に手を伸ばして…頭を抱き寄せる。
「…ごめんね…そんな時にあたし…向こうで青春してて。」
「…青春してたのか。」
「うん。すごく。」
「…ま、楽しかったならいいよ。帰ったらおまえには仕事の上に育児もついてくるし…」
「あたしが帰ったからって、怠けないでね。」
「もちろん。」
とは言いながら…
あたし達は同居してるから、普通の夫婦の子育てよりはずーーーっと楽ちん。
だって、朝霧家…
みんなすごく協力的だもん。
「…浮気しなかった?」
「するかよ。」
「ほんとに?」
「疑ってんのか?」
「ジャケットのポケットに、電話番号書いた紙が入ってた。」
「えっ!!」
あたしはカマをかけただけなのに。
希世は大きな声でそう言うと。
「あっあああああれは、違うんだ!!」
あたしから離れて…慌ててる。
…こいつ…
浮気しやがったな…!?
「希世…」
「違う!!ちょっと…ちょっと付き合いで…」
「何の付き合いよ。」
「その…」
ゴクン。
希世は生唾を飲む音を部屋に響かせて。
「その…しゃ…社会勉強のために、行っただけで…」
狼狽えた。
「行った?どこへ。」
「……」
「希世。」
あたしがすごむと。
「…風俗…」
希世は小さくつぶやいた。
「……あんたとは一生寝ない。」
「沙也伽!!悪かった!!でも聞いてくれ!俺はやめとこうって言ったんだ。だけどあいつがどうしても社会勉強のためにって言うし、おまえはアメリカだし、俺も寂しくてついって言うか、でも全然気持ち良くなくてやっぱおまえじゃないとダメだって、でも俺も男だから仕方なくその」
「うるさい。」
希世の言葉、途中で遮る。
本当は、そんなに腹は立ってない。
だって、あたしも…風俗じゃあないけどさ。
男前に囲まれて、旅したりパーティーしたり、飲んだりしてたわけだし。
だけど、またみんなで遊びに行ったりしたいから、これは希世の弱みとして掴んでおこう♡
希世、愛してる♡
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