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 〇桐生院華音 「華音。」  大晦日。  事務所から帰った後、ばーちゃんと窓拭きをしてると、親父が険しい顔で帰って来た。 「あ?」 「おまえ…DANGERはこれから先、どうするつもりだ?」 「…は?」  親父は…何かイラついてるのか…  腕組みをしたかと思うと、前髪をかきあげて。 「…くそっ…」  小さくだけど、そう言ったり… 「…千里さん、何かあったの?」  ばーちゃんが問いかけると。 「…アメリカデビューは、間違いだったかもしれない。」  親父はそんな事を言った。 「…間違いって何だよ。俺ら、一応課題クリアだろ?」  雑巾片手に立ち上がって。  少しムカついたもんだから…口調も柔らかくはなかった。  それを少し反省しながらも親父を見据える。  すると、親父は斜に構えて。 「おまえら…向こうで何してやがった。」  低い声で言った。 「…何の事だよ。」 「グレイスに何か聞いたんじゃないのか?」 「は?」 「華音には言った。ってグレイスは言ってる。」 「……」  まさか…  おい…  嘘だろ…  俺は、血の気が引いて行く気がした。 「いや…聞いたけど…まさか…」  俺が狼狽えると。  そばにいたばーちゃんが。 「…話が見えないけど…何か大変な事があったの…?」  親父に問いかけた。 「…DANGER、続けるなら…」 「……」 「DEEBEEみたいに、メンバー探さないとな。」  親父はそうとだけ言って…歩いて行った。  …嘘だろ… 「…華音…?」 「…ばーちゃん…信じられない事が起きたら…どうするもんかな。」  俺が小さく問いかけると。 「え?…んー…確かめる…わね。」 「…そうだよな…」  グレイスから言われたのは…  沙都に。  ソロデビューの話を持ちかけた。って事だった。  その時俺は。  何冗談を。って気持ちと…  カプリでの沙都の歌を聴いて、イケる。と思ったグレイスを。  デキる女だ。  とも思った。  だが…  まず、沙都が受けない。  そう思った。  実際、グレイスが沙都に打診すると、沙都は断ったと言っていた。  だが…  グレイスは、諦めてなかった。 『DANGERが帰国しても、沙都はアメリカに残して欲しい』  と、何度も言って来た。  本人の意思次第だろ。と何度も言った。  もちろん…沙都にはその気はなかっただろうし。  俺も、そう信じていた。  沙都は、俺と同じで…  紅美の声を一番綺麗に、カッコよく響かせるために弾いている。  自分が一番になるためじゃない。  なのに… 「…沙都。話がある。」  沙都に電話をした。  電話の向こうの沙都は… 『…なんだ…ノンくん、知ってたんだ…』  信じられない言葉を言った。
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