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 〇朝霧希世  俺は…  何も言葉が見つからなかった。  弟の沙都が、自分の夢を持った。  それは…喜ばしい事だと思う。  だけど…さ。  今までのは?  DANGERとしてのデビューは、沙都の夢じゃなかったのか?  日本でデビューして。  事務所のイベントで、あんなにインパクトのあるステージを見せて。  アメリカでもデビューして…  これからだろ?  なのに…  その絆を築き上げたであろうDANGERを抜けてまで…  なんで…ソロデビューなんて…  俺達DEEBEEは、メンバー脱退を経験したばかりで。  その衝撃とか痛みというのは…痛いほど分かる。  沙也伽とノンくんの気持ちを察すると、迂闊に言葉を出せる気がしなかった。  が… 「…沙都。」  じいちゃんが、言った。 「夢を見るのはええ思う。けどな、なんでメンバーに相談せずに決めたんや?」  それだよ。  なんで相談もなく… 「…反対されると思って…」  沙都の小さな声に…  ガツッ!! 「沙都!!」  …親父が、キレた。 「おまえ…仲間を何だと思ってんだ!!」 「あなた!!やめて!!」  沙都は床に倒れたまま、口元の血を拭うと。 「…悪いと思うよ…」 「悪いと思う?悪いと思うならやめろ。そんな夢は見るな。」 「…悪いと思うけど…もう、決めたんだ…」  沙都のその言葉に…親父は握ってた手を再び振り上げようとしたが… 「やめて下さい。」  それを止めたのは…ノンくんだった。 「…ノンくん…」  ノンくんは親父の前に立って頭を下げると。 「…俺達で…話させて下さい。」  いつになく…力のない声で言った。  …俺の隣にいる沙也伽は…  親父が沙都を殴った時点で…泣いてた。 「…沙也伽。」  肩を抱き寄せると、沙也伽は声を押し殺して泣きながら…  俺の肩に額を当てた。 「……」  …沙都。  おまえ…何考えてんだよ…ほんと… 「沙也伽…話せるか?」  ノンくんが遠慮がちに言ったが… 「…く…紅美は…?」  沙也伽は、必死に声を絞り出して…そう言った。 「……」 「…紅美…は、どう…どうするのよ…沙都…」  まだ、みんながいる中での沙也伽の問いかけに。  沙都は… 「…紅美ちゃんは…」  ノンくんの後ろで、座ったまま。 「…連れて行く。」 「……」 「……」  沙都の言葉は。  ノンくんの目を閉じさせて。  沙也伽の涙を、より流させた。  親父は、沙都に勘当を言い渡して。  神さんは…額に手を当てて首を振った。  …沙都。  夢を見るのは…悪い事じゃないけどさ…  おまえ…  仲間を悲しませてまで…  それを見る価値はあるのか…?
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