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〇二階堂紅美 「え?今から?」 『うん。』 「いいけど…」 『じゃ、今から行くから。』 「うん。気を付けてね。」  大晦日。  わっちゃんと空ちゃんのマンションから帰って、両親と学とチョコとでご飯を食べた。  さあ、お風呂入って…初詣に行く支度をしようかな。  なんて思ってると…電話が。  電話の主は、沙都。  ダリアで待ち合わせて、初詣に行こうって約束してたんだけど。  いきなり… 『話があるから、今から家に行っていいかな。』  …なんだろ。  声、暗かった。  落ち着かなかったけど…先にシャワーしちゃえ。と思って、急いでシャワーを浴びた。  髪の毛を乾かしてると… 「紅美ー、沙都ちゃんよー。」  母さんの声。 「はーい。」  ちょうどいい。  あたしは鏡に顔を近付けて。 「よし。」  何がよしか分からないけど…そう言って部屋を出ようと… 「あっ…何だ。ビックリした。」  ドアの前に、沙都がいた。 「…入っていい?」 「え?うん…」  何となく、話って…リビングでするのかと思ったけど。  …父さんと母さんに聞かれたらまずい話?  ドアを大きく開けて、沙都を中に… 「…紅美ちゃん…」  部屋に入ってすぐ、沙都はあたしを抱きしめた。 「…どうしたの?」  沙都の顔…左の頬にあざ…  ゆっくり触ると、沙都は少し痛そうな顔をした。 「誰かとケンカしたの?」 「…父さんに殴られた。」 「どうして…」 「…出てけって言われた。」 「え?」  あたしは眉間にしわを寄せて沙都を見る。  沙都のお父さんってさ…  早乙女さんと一、二を争うぐらい…温厚な人だよ?  希世が沙也伽を妊娠させた時は、キレて殴ったって聞いたけど…  あたしは妊娠してないし…  て言うか、沙都がお父さんを怒らせるような事をしたとか…  想像つかないんだけど。 「何があったの?」  沙都を座らせて問いかけると。 「…紅美ちゃん。」  沙都はあたしの手を取って。 「僕と…結婚してくれない?」 「………え?」  思いがけない…言葉。 「駄目かな…」 「…あ…えと…急過ぎて…ビックリしてる。」  やだな…すごくドキドキしてるよ。  だって沙都…  目が。  今までと違う感じ… 「…でも…出てけって言われたって…どうして?あたしと結婚したいって事と…関係してるの?」  気になって問いかけると… 「…紅美ちゃん…僕の事、好きって言ったよね…?」  確認された。 「うん…」  隣に座って、沙都の目を見つめる。  沙都…  どうしたの? 「…DANGER…やめて、二人でアメリカ行かない?」  沙都が小さく放った言葉が。  あたしには…嘘に聞こえて。 「え?何言ってるの?」  笑いながら、答えてしまった。 「もう、十分だよね?」 「…え?」 「もう…夢は叶えたよね?」 「……」  沙都の言ってる事が、分からない。 「紅美ちゃん、バンドデビューの夢は叶えたから、もういいよね?次は…僕と結婚する事…それが夢だ、って…思っていいよね?」 「……」  あたしは、手を握られたまま。  呆然と…沙都を見つめた。 「…沙都…?」  分かんない。  沙都の言ってる事の意味が…  分かんない。  あたしは呆然と沙都を見つめて。  その表情から…何か読み取ろうとしたけど。  沙都は… 「僕…グレイスから、ソロでアメリカデビューしないかって言われて…」  信じられない事を言った。 「……ソロデビュー…?」 「うん。」 「…ベーシストとして…?」  違う。  分かってる。  シンガーとして、だ。  カプリでの沙都を思い出すと…それは頷ける。 「…シンガーとして…」 「……」  沙都の歌には、人を癒す力があった。  グレイスは…それをすぐに感じ取ったんだ…。 「…僕…試してみたいんだ…自分の力が、どこまで通用するのか…」 「……」  沙都が…  シンガーとして…デビュー… 「…DANGER…どうするの…?」  聞くのが怖かった。  だけど…低い声で問いかけたあたしに。 「…抜けるしかないよね…」  沙都は…あっさりとそう言った。 「…あたしは…?」 「だから…結婚して、一緒にアメリカに付いて来て欲しい。」 「……」  あたし…  DANGERを捨てられない。  みんなを裏切れない。  そう思って…  海くんと、逃げる覚悟が出来なかった。  なのに…  沙都は、こんなにもあっさり…  みんなを捨てようとしてるの…? 「…ノンくんと…沙也伽に…」 「…言った。」 「え…っ?」 「…ノンくんと…神さんが来て…みんなで話し合ってて…父さんに殴られた。」 「……」  …何?  じゃあ、沙都は… 「…いつ…そんな話が出たの…?」  そして、いつ…決めたの?  誰にも何も言わずに… 「…デビューライヴの夜…カプリで歌ったのを聴いたグレイスが…」 「……」 「あの夜、紅美ちゃんの部屋からの帰りに…偶然会って…」 「え…」  確か…あの夜。  沙都は、朝まで帰って来なかった。って…海くんが言ってた。  …グレイスと一緒だったって事…? 「あの時は、すぐに断ったよ。だけど…僕自身の夢を持つ気はないのかって…言われて…」 「…沙都自身の夢…?」 「……」  沙都は少し言いにくそうに。 「…紅美ちゃんのために弾く…って言うんじゃなくて…僕が…僕として…」 「……」  …そう…か。  沙都は、今まで…あたしのために、DANGERをしてたんだ…?  …なんだ…  食いしばってうつむいた。  どう…答えたらいいの?  沙都は、初めて…自分としての夢を持った事になる。  それは…すごく…  嬉しい事だよね?  出来れば、みんなに祝ってもらいたいよね。  だって…デビューだよ?  ……だけど… 「…紅美ちゃん…」  あたしの目から、ポロポロと涙がこぼれるのを見て。  沙都は…小さく溜息をついた。 「…ごめん…困らせてるよね…僕…」 「…沙都が…夢を持ったのに…追おうとしてるのに…」 「……」 「応援したい…だけど…沙也伽とノンくんは…どうなるの…?」 「……」 「なんで…決める前に…悩んでる段階ででも…相談してくれなかったの…?」  あたしの言葉に沙都は何度も何かを言いかけてはやめて…  だけど結局… 「…紅美ちゃんは…僕のために…とは…思ってくれないんだね…」  寂しそうに、そう言って…部屋を出て行った。
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