11

8/16
52人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
〇二階堂紅美 「良かった…来てくれて。」  沙都に電話をしても、ずっと出てくれなかった。  何度も連絡をして、留守電とメールを繰り返して…  夜になってようやく…事務所のプライベートルームに来てくれた。  沙也伽とノンくんには帰ってもらって。  あたしはずっと一人で…ギターを弾きながら、沙都を待ってた。  待つ間…  ずっと、色々考えた。  これからの、あたしと沙都の事…  バンドの事…  そして…夢… 「…遅くなってごめん…」  沙都は少し疲れた顔をしてた。 「どこに行ってたの?」 「…音楽屋のベースのブースで、ずっとベース弾いてた。」 「ふふっ…迷惑な客。」 「…だよね…」 「…沙都。」  あたしは沙都を抱きしめる。  背中に手を回して…指先にまで、気持ちをこめた。 「…プロポーズ、ありがと。すごく…ドキドキした。」 「…困らせただけじゃ…?」 「ううん。嬉しいに決まってるじゃん。」 「……」  沙都はあたしを抱きしめて。 「紅美ちゃん…離れたくないよ…」  あたしの額に唇を落とした。 「…色々考えたの。」 「…うん…」 「あたしも、沙都と一緒にいたい。だけど、DANGERを捨てたくもないの。」 「……」 「沙都は…もういいじゃないって思ってるかもしれないけど…あたしの夢は、デビューで終わったわけじゃないよ。これから先も…みんなでやってく事。これが、夢だよ。」  あたしの言葉に、沙都は何か言いたそうだったけど…飲み込んだ。 「でも、沙都の新しい夢…ソロデビューなんてさ…すごいよ。グレイスが進めてるプロジェクト、世界発信なんだってね。ほんと…すごい。沙都が認められたって、誇らしい。」 「……」 「応援したいって思う。だから…沙都は…DANGERを続けられなくても…仕方ないと思う。」 「…でも…紅美ちゃんは続けるんだ?」 「あたしも沙都もいなくなったら、どうにもなんないよ。」 「……」 「活動に制限は出来ちゃうかもしれないけど…どうにか上手くやっていけないかなって思う。きっとノンくんと沙也伽は分かってくれるはずだから、何とかDANGERが存続してやっていける方法を考えながら…」  あたしが話してる途中。  沙都は、あたしから…ゆっくり離れた。 「…沙都?」 「…もし僕が世界ツアーに出たりして…」 「うん。」 「…それに同行するとか…そういう気はないって事?」 「……」 「僕は、紅美ちゃんと離れたくない。」 「…沙都は…あたしに、もう…歌うなって言ってる?」  あたしは…  沙都から目を離さなかった。  分かって欲しかった。  あたしの夢は終わってない事。  ノンくんと沙也伽は仲間である事。  DANGERを終わらせるわけにはいかない事。  分かって…欲しい。 「沙都が世界に挑戦するのは、いい事だと思う。」 「……」 「だけど…どうしても抜けなきゃならない?」  沙都はあたしからゆっくりと視線を外して。 「…紅美ちゃんは、僕が成功するわけないって思ってる?」  低い声で言った。 「どうして?」 「成功しなかった時、戻ってくればいいじゃないかって…そう言ってるように聞こえるから。」 「…そうじゃないよ。」  …ううん。  そう…思ってる所があったのかもしれない。  ずっとベーシストとしてやって来て。  打ち上げの余興として…歌っただけの沙都が。  いきなり世界へ出て…成功するわけがない。  あたしは…  もしかしたら、ボーカリストの意地として。  沙都に…嫉妬していた部分があるのかもしれない。 「…そう…だね。ごめん。もしかしたら、そう思ってるのかも…」  沙都の手を取って、正直にそう言うと。 「…誰だって…信じられないよね…僕だって、半信半疑だよ。だけど…自分にどれだけの力があるか…試したいって…生まれて初めて感じてるんだ。」  沙都は何かを…諦めたような声で言った。 「いきなり成功するなんて、思ってないよ。だけど…チャンスをもらえるなら…それに賭けてみたいって思ったんだ。」 「…そう思ったキッカケって、何なの?」  ノンくんに聞いた。  沙都は最初…グレイスからの申し出を即答で断ってる、と。 「…海くんにも、ノンくんにも…」  沙都はあたしの肩を抱き寄せて…それから、ギュッと抱きしめて。 「僕は…海くんにもノンくんにも勝てないって思ってた。」  あたしの耳元で言った。 「勝てないって…」 「海くんは二階堂を背負ってる人で…ノンくんにはブレない夢があって、それは…僕だって。って思う反面、ノンくんの方がずっと…紅美ちゃんに近くて…」 「沙都、待ってよ。そこにあたしの気持ちは入れてくれてる?あたしの気持ちは無視したまま、沙都が勝手に…」 「そうだよ。」 「…沙都…」 「勝手に、あの二人に勝てないって苦しんでた僕がバカなんだよ。紅美ちゃんは僕を好きって言ってくれたのに。」 「…それなら…」 「だけど。だけどさ…僕だって、誰よりも誇れる何かがあるって言われたら…それに賭けたくなったんだよ。それで自信をつけて…」 「……」 「紅美ちゃんは、僕だけのものだ…って。もっと堂々と言える男になりたくて…」 「沙都…」  どうしたら…?  どうしたら、伝わるの?  あたしは、沙都が好き。  それじゃ…ダメなの?  あたしが…  海くんやノンくんにフラフラしてたから…  沙都は…  こんな気持ちを抱えてしまったんだ…。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!