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 〇二階堂紅美  勘当されたって言ってたし。  うちに泊まれば?って言ったけど。  沙都は、ちょっと僕なりに考えたいから。と言って、事務所を出た。  あたし自身…  どうするの?  沙都と…結婚…するの?しないの?  結婚…したいの? 「紅美。」  重い足取りで家に帰ると、リビングに父さんがいて。 「話せるか?」  あたしを手招きした。 「うん…」  あたしの事、待ってたのかな… 「飲むか。」 「え?」 「正月だ。ちょっといい酒でも飲もうぜ。」 「……そうだね。」  父さんの言葉に、あたしは笑って答える。  すると、『早乙女家でもらった』なんて言いながら、父さんは食品庫から桐の箱に入ったお酒を持って来た。  あたしと父さんはグラスを合わせて。 「明けましておめでとう。」 「あ…まだだったよね。うん。明けましておめでとう。」  笑い合った。 「沙都の話、義兄さんから聞いたぞ。」 「…うん。」  やっぱ…この話だよね。 「沙都に…ついて行くのか?」 「…迷ってる。」  あたしは…海くんやノンくんの事は置いといて…  沙都との事だけを話した。  正直に。  色々回り道をしたけど、ちゃんと沙都を好きという気持ちがある事。  できれば…沙都を応援したい事。  だけど、バンドはやめたくない事。 「…紅美が家出した時…」  父さんは、ポツリと話し始めた。 「沙都は…そりゃあ必死で探してくれた。」 「…うん…」 「生い立ちを隠し続けて、それで紅美を傷付けてしまった。その結果、紅美に…ここに居辛くしてしまって、出て行く事を望ませたようなもんだ。俺達は、探さないと決めた。」  あたしには…今となってはだけど。  父さんは、一生…この事を苦しむのかもしれない。 「だけど沙都は…毎日毎日、おまえを探してくれた。」 「…そうだよね…」  幼稚舎の頃から、あたしの写真は沙都とのツーショットが多い。  あたしが初等部に上がった時、制服が変わったのと違う場所へ行き始めた事で、沙都は自分も初等部へ行くって大泣きしたんだっけ…  当然それは叶わなくて。  週末、泊まりに来るようになった。  沙都は学と双子みたいで。  周りからも…うちは三人兄弟だって思われてたかもしれない。  父さんは、沙都の事を学と変わりなく、息子みたいに思ってたし…  それでなくてもSHE'S-HE'Sの面々は、自分の子供とメンバーの子供、分け隔てなく…みたいな所があるから。  あたし達は、いつも大家族みたいな気持ちもあったと思う。 「紅美がいないとダメだった自分から、卒業したいのかもな。」  父さんは、小さく笑って言った。 「…あたしから、離れたいって事?」 「反対。紅美にくっついてた自分じゃなくて、紅美にくっついて来てもらえる自分になりたいんじゃないか?」 「……」  いつもあたしの後を追って来てた沙都。  それが…  反対になったとして。  あたしは…沙都を追って行ける?  だけど…自分の夢は…  その時。  どうしたらいいの…?
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