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 深夜。  のどが渇いて目が覚めた。  確か…サイドボードに…ペットボトルが…  手を伸ばしてそれを取ろうとして… 「あ…」  落としてしまった。  やだな…  何日も寝た切りだと、せっかくつけた体力も落ちちゃうよね。  早く元気にならなくちゃ…  …拾えるかな。  その前に、起き上れるかな。  ゆっくりと肘をついて、体を起こそうとすると… 「は…」  驚いて声にならなかった。  突然、  腕を持たれて…体を起こされた。 「…海くん…」  海くんは、あたしの背中を支えながら…ペットボトルを開けてプラスチックのコップに注いだ。 「…水差しがいるか?」 「う…ううん…平気…」  コップを受け取って、それを両手で持って…ゆっくりと飲む。  ああ…生き返る… 「……」 「……」 「…もしかして…毎晩…居てくれたの?」 「……うちの現場で出た怪我人だからな。」  あ、そう…。  て言うか…  昼間仕事して…夜中来てくれてたなんて…  …嬉しいよ…。  海くんは、立ったまま…片手であたしの背中を支えてくれてる。  労わるって言うよりは…  事務的と言うか…  だけど、嬉しい。 「…海くん。」 「水、もういいか?」 「…まだ飲む。」 「……」 「あたしの事、嫌いでもいいよ。」 「……」 「でも、あたしは好きだから。」 「…そんな話が出来るなら、もう付き添わなくていいな。」 「抱けなくていいの。」  あたしは、海くんの手を掴む。 「抱いて欲しいなんて、もう言わない。」 「……」 「ただ、昔みたいに…は無理でも…」 「……」 「傷付いたとか、傷付けたとかじゃなくて、ただ…笑う海くんが見たいの…」  海くんはあたしの手を離そうとしたけど。  あたしは…ギュッと掴んだ。 「…そんな簡単なもんじゃない。」 「どうして?朝子ちゃんは…もう笑ってたよ?」 「…俺から離れられたんだ…笑えても不思議じゃない。」  ムカッ 「海くん。」  あたしは、今ある力の全てを出して。  海くんの両頬を挟んだ。  海くんの顔は、事務所のスタジオの前にある本棚の、ブラックジャックで見た『ピノコ』みたいになってしまって。 「アッチョンブリケ…」  あたしが、ピノコのセリフを言うと…  海くんが… 「…ふっ…」 「あ、笑った。」 「…………笑ってない。」 「海くん、知ってるんだ?アッチョンブリケ。」 「…紅美こそ、なんで知ってる?」 「え?ブラックジャックでしょ?」  あたしの言葉に、海くんは眉間にしわを寄せた。 「…何だそれ。」  相変わらず目は見ないんだけど…頬に触れてるあたしの手は…振りほどかれてない。 「手塚治虫の漫画だよ。」 「…昔、二階堂で使われてた暗号だ。」 「え?」  誰だー?  そんなのを暗号にした人。  遊び心、あり過ぎじゃん。  あたしは小さく笑いながら。 「なんて言う意味なの?」 「それに意味はあるのか?」 「ううん。なかった。二階堂の暗号は何だったの?」  海くんは少しだけ瞬きが増えた気がした。  しばらく待ってると…  小さく答えてくれた。 「…確保。」
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