1人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後は、君とゆっくり話せるチャンス。
それなのに、今日は雪が朝から降っていて、帰るころには、五センチほど積もっていた。
この地域では滅多に雪が降らないため、正直雪の中登校するのは怖かった。
でも君が、雪だけど学校行くって言うから、頑張って来た。
「お待たせ~。小倉君、帰ろう~」
机に顔を伏せて寝ている僕に声をかけたのは、江畑直美、今日も学校に来るよう言ってきた張本人。
でも、校内ではあまり話はしない。
帰り道の、駅までの道のりの五分程度か、放課後の居残りや部活の時間だけ。
僕たちの関係は恋人ではないし、友達と言えるほど互いを知らない。
僕たちの出会いは、snsだった。
とあるアイドルを推していて、現場で出会った。
なので、互いに最初はハンネで呼び合っていた。
しかし、中学に入ったとき、同じクラスになった。
そこで互いの本名を知り、席も近くて違和感のない程度に話していた。
互いにオタクであることは秘密にして学校生活を送るため、教室内での会話は、とても淡泊な感じだった。
次の授業の話とか、ご飯の話とか。
でも、その会話は意外と楽しい。
初めて会ってから、三年ほど経っているが普段話す事とは違う話題のため、僕は楽しんでいた。
「今日は一日中雪ですって、先輩」
「桃田、急に話しかけないで、って何回も言っているじゃない…」
急に話かけられたので、食べていたおにぎりの梅干しが落ちてしまった。
「江畑先輩って驚くとすぐ物を落としますよね~。代わりに私の卵あげますね」
彼女お手製の卵焼きを口に入れてもらう。
滅茶苦茶おいしくて、さっきまで考えていたことを思い出せなくなる。
「先輩、また昔の事考えていましたか? いつも雪の時になると切ない顔していますもん」
そんなに切ない記憶かしら…。
確かに思いを伝えることなく、今では疎遠。
でも、もう十年近く前の事だから。
そう思い、私は想いに蓋をした。
つもり積もった想いが雪崩を起こす前に溶けたらいいな。
最初のコメントを投稿しよう!