イケメン恐怖症

1/7
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ

イケメン恐怖症

「ねえねえ、知ってる?」 「何々?」 時刻は正午を十五分回ったところ。 昼食をとろうと入ったカフェの隣の席で、若い女の子が二人、雑誌を広げて大声でしゃべっている。 「モデルの新美(にいみ)ジュリがデキ婚だって」 「ええー!? ウソでしょ?」 「マジのマジ。相手は俳優の……」 キャッキャと他人の恋バナで盛り上がっている。 何がそんなに楽しいのだろう。所詮他人事なのに。 「……でね? 私の最近の推しなんだけど」 「えー、また推しが変わったの?」 「今回はマジだから! モデルの優兎(ゆうと)君、知ってる?」 「知ってる! 超有名人じゃん! 昨日もテレビで見たし」 私も知っている。今世間を騒がせている国民的アイドルの一角をなす超絶ハイスペック系爽やかイケメンモデルだ。 父親はかの有名な製菓会社の会長。母親は世界規模で展開するジュエリー会社の社長。 本人もモデル業で成功してからというもの、いろいろな番組や雑誌に引っ張りだこで彼を目にしない日はないと言っても過言ではない。 ――ああ、嫌だ。 彼だけ、というわけではないけれど、どうも彼のような男性を目にすると鳥肌が立つ。 友達曰く、「イケメン恐怖症」だとか。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!