イケメン恐怖症

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「お帰り、沙織」 会社のデスクに戻ってくると、同僚の浅田亮太が声をかけてきた。 入社以来あれこれと世話を焼いてくれる男で、皆から「企画部のママ」などと冗談半分に呼ばれている。 「ただいま」 私は挨拶を返すと、デスクの上を見た。 そこには私が昼食に出るまでなかったはずの書類の山がこんもり。 一番上にメモが置かれている。 『明後日の会議用資料をまとめておくように。締め切りは明日の午前中』 なんてことだ。今日は仕事が少ないから早く帰れるかと思ったのに。 「ご愁傷様。さっき部長が置いていったんだ」 「何ですって?」 相変わらずうちの部長は人使いが荒い。 自分はさっさと定時で上がる癖に、部下には容赦なく残業を押し付けてくるのだ。 「イケメンだから許されてるよな」 と言うのは、亮太の言葉だ。 そうね、イケメンの部類よね、と思う。 指示を仰ぎに行くだけで悪寒がするレベルの顔面偏差値をお持ちだ。 発されるテノールボイスも同僚の女子たちの間ではセクシー系と名高いが、私はそんなこと関係ない。 とにかく近寄るのも遠慮したい上司なのである。
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