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一
ボロアパートのドアを乱暴に開け放ち、玄関に倒れ込む。中から迎えてくれたのは、冷たい空気だけだった。
この先、生きていても意味がない。大好きな彼女にはこっぴどく振られ、やりがいのあった仕事もあっさりとクビになった。
退路を断つために、居酒屋で有り金を全て使い果たした。預金残高など、ここ数ヶ月ゼロ。これで明日の昼飯も賄えなくなった。
ふーっと息を吐き、十年以上付き合ってくれたネクタイを、ワイシャツから剥ぎ取る。
これで首でも吊ろう。吐き気を抑えながら、周囲を見回す。殺風景な部屋の中には、手頃な場所はない。
ベランダにするか。くたびれたワイシャツのように、物干し竿に吊り下げられて命を断とう。通行人はさぞ驚くだろう。関係ない。死んだ後のことなんて。
壁に手をつき、体を起こす。不安定な足を一歩踏み出した時、ツルリとしたなにかを踏みつけた。
「痛ってぇ……」
気がつけば、クモの巣が張った天井を見上げていた。
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