2033年1月「幻の国際シンポジウム」(ナンシー、パリ、ロンドン、ハリッジ、ロッテルダム、ブリュッセル、パリ、ナンシー)

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 シオン型ユーロスターの終着点、キングスクロス駅に到着する少し前に電車が止まった。さっきもチャネル・トンネルでドーバー海峡を抜けてしばらくしてから一度、停車したけど、あの時は、約二、三分で動き出した。今回もすぐに動き出すのかと思ったけど、十分経過しても何も起きない。もしかしたら今度の停車は長くなるのかもしれない。 「でも僕らは長丁場でも大丈夫だ。マルのフルコースがあるから三日くらいは持つよ」 なんて冗談も、一時間も車内に放置される頃にはなんだか冗談でなくなりつつある。そして三時間も閉じ込められる頃には、一般の乗客のストレスは最高潮に達しているのがわかったけど、僕たちは、本当にマルが準備した大量の食事に助けられた。でも、これ以上、遅くなるなら、国際シンポジウムがあるオクスフォードまで今日中にたどり着くことができなくなる。そろそろ僕らにとっても、我慢の限界が近づいてきた。  しびれを切らしたマルが、「ドアを開けて、線路の上を歩こう」、とワイルドな提案をした。 「確かにここはもうロンドンの近くだけど、徒歩で高速鉄道の上を歩くのは危険だし、むやみにドアを開けると罰金(ファイン)の対象になるよ」
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