2033年1月「幻の国際シンポジウム」(ナンシー、パリ、ロンドン、ハリッジ、ロッテルダム、ブリュッセル、パリ、ナンシー)

7/13
前へ
/645ページ
次へ
 僕には、まだ冷静さが残っていたようだ。僕の言葉を受けて、マルが、ドアの近くの罰金を課す警告の表示を見ながら器用に単語を拾って文章をつないだ。 「ファイン・フォー・ヴァイオレーション・オヴ・ロー」 と英語で読み上げて、続けてフランス語で 「法律に触れても大丈夫!」 と力強く翻訳して見せた。うん。翻訳は正しいような気もする。でもマルは実際に自分でドアを開けたりはしていない。  その時、他の乗客の一人が非常時のドア開閉用のレバーを引いて、無理やりドアを開けて、線路に飛び降りるように下車した。これは明らかに危険な行為だ。ほかの乗客もそう感じたのだろう。この時点では、誰も彼に続く者はいなかった。
/645ページ

最初のコメントを投稿しよう!

170人が本棚に入れています
本棚に追加