商売っ気のないBar

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 1Kアパートのテレビから昼のニュースが流れている。 「日本付近は冬型の気圧配置で、明日以降は上空に寒気が流れ込みます。特に来週月曜日は一段と寒さが厳しさを増すでしょう」  日本列島のところどころに雪マークが映っていた。窓ごしに空を眺めると、薄ら寒い冬の雲が見える。もしかすると、このまま雪が降るのかもしれない。せっかくの週末だったが、沙奈恵とレンタルDVDを借りてきて正解だった。最近体調が優れないという彼女にも配慮した結果である。 「裕介ェー。何が観たい?」  小ぶりのテーブルにはレンタルDVDが並べられていた。旧作ばかりだが、これだけあればたっぷり二日間は楽しめるだずだ。僕がおもむろにホラー映画を手に取ろうとすると、一瞬早くアニメの新作を提示された。 「これにしようよ。ね?」  僕は苦笑した。だったら聞かなくてもいいのにと思う。 「わかったよ」  そう言って、テーブルのリモコンに手をやった時だった。ドアホンがうるさいくらいに何度も鳴らされた。 「もー、うっとうしい!」  沙奈恵がぶつぶつ言いながら立ち上がるのをじっと眺めていた。くそ面白くないという顔だった。  玄関から戻ってきた彼女は、害虫に向けるような目をしていた。彼女の後ろには正樹がいた。僕の幼なじみであり、会社の同僚でもある。正樹をぼんやり眺めていると、彼は、「おじゃまします」の一言もなく、そのままカーペットに座りこむ。まるで自分の部屋でくつろぐような感じだった。 「ハンガーにかけてくれ」  正樹は沙奈恵に目もくれないで、フード付きコートを渡した。  彼女は、ぱちぱちと瞬きしてから、いやいや引き受けた。 「今日はどうしたんだい?」  僕の問いかけに答えず、正樹は室内をきょろきょろ見回している。 「ここがおまえの部屋か。ショボいな」  そう言われても仕方がない。築三十年の八畳間なのだ。多少のことは目をつぶらなければ。就職してようやく見つけた部屋に、正樹は容赦ない言葉をぶつけてきた。 「先輩。何か用ですか?」  改めて沙奈恵が訊ねた。テーブルのDVDを片付ける手が、こころなしか乱暴そうに見える。 「あ? 一度くらい裕介が住んでる部屋を拝んでやろうと思っただけだ。それにしても何もない部屋だな」  正樹の目が止まった。壁際の本棚だった。 「いい酒があるじゃないか。よし、飲むぞ。寒い日はこれに限る」
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