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北口に戻り、ショッピングセンターで一通りの買出しを済ませ、ふらりと立ち寄ったショップで何枚かのCDジャケットを見ていた秋人に背後から声が掛けられた。
「櫻井さん…ですか?」
秋人が振り返ると、昨日フォレストで小暮に紹介された菜美が紺色のブレザーと格子柄のスカートといった制服姿でそこにいた。
「あ、やっぱり秋人さんだ」
「あれ、君は昨日の…」
菜美は小首を傾げて微笑んだ。
その笑顔を見て秋人は彼女の名をすぐに思い出せた。
「河原 菜美さん」
ポンと手を打った秋人の姿に菜美がくすくすと声を出して笑った。
「はい、正解です。菜美って呼んで頂いて構いませんよ」
シャンプーしたてのような栗色がかったさらさらの綺麗な髪。
切れ長で大きな澄んだ瞳に、さくらんぼ色した形の良い唇。
目鼻立ちがすっきりして整った顔立ちに、すらりと伸びた手足。
まだ少しだけあどけなさが残る笑顔だが、菜美の容姿は美人と呼ばれるものだった。
「じゃあ、菜美ちゃん。学校帰りなのかな」
菜美の笑顔につられ、秋人も思わず微笑んでいた。
「はい。今日はアルバイトがお休みだから、ウィンドゥショッピングしていたんです。視聴したいCDもあったからここに立ち寄ったら…。こんなところで秋人さんに会えるなんて思いもしませんでした」
秋人は真っ直ぐな瞳で自分を見つめ、物怖じせずに会話のキャッチボールが出来る菜美に好感を持った。
「昨日の演奏、とてもステキでした。情感のある柔らかな音色なのに歯切れが良くて涼やかで…。私もこんな風に弾けたらなぁって思いました。実はずっと前から小暮先生に秋人さんのことは色々と聞いていたんです。ジュニコンで優勝したこと、日本学生音楽コンクールでは二位になったこととか。私、秋人さんにもう一度フォレストに来て頂いて、少しの時間でもいいから……、えっと、その…レッスンをお願いしたいって思っていました」
少し照れたように、肩までの細く綺麗な髪を耳に掛けながら菜美は最後の言葉を呟いた。
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