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職場の面々とも打ち解け雰囲気にも慣れた頃、小暮が菜美を連れ立ち、ひょっこりと店にやって来た。
「秋人さん、こんにちは」
菜美はいち早く秋人を見つけると小走りに駆け寄ってきた。
「菜美ちゃんに小暮先生!! ようこそ」
秋人が菜美の頭を撫でながら会釈する。小暮もにこりと笑い、思い出すように言った。
「ああ、秋人の後輩の頭を撫でるクセは相変わらずだな。それにしても…」と、店内を見廻しながら小暮は言葉を続けた。
「前から較べると随分、雰囲気が変わったな。店内に入り易くなったよ。それに秋人の表情も生き生きしている。仕事は上手くいっているようだな」
「はい。お陰さまで」
満足そうに頷いた秋人を見て小暮は穏やかに微笑む。
「そうか。落ち着いたら又、ピアノを弾きにフォレストに来てくれ。菜美がうるさくてかなわんのだよ。口を開けば秋人は何時来てくれるのか、早く連絡して欲しいとそればかり。挙句の果てには、家の住所を教えてくれとせがむし。余程、お前にピアノを教えてもらいたいようだ」
小暮は茶化しながらも優しい目で菜美を見ている。
「もう、先生ったら。私、そんなこと言って…ますね」
肩をすくめ、菜美は声を出して笑った。
弾けるような笑顔は、彼女の天真爛漫な明るい性格をよく表している。
小暮はそんな菜美のピアノの才能を気に掛け、今以上の実力を引き出したいと考えているようだった。
「で、どうだ。何時頃、暇を作れるかな」
そう尋ねた小暮の脇腹を菜美が突付く。
「出来れば来週の日曜日がいいな。その日、秋人さんはお休みだって先生から聞いています。勿論、秋人さんの都合が良ければのお話しですけど」
小暮が思い出したように口を挟んだ。
「ああ、来週の日曜日…。確か、菜摘くんが来る予定になっていたな。それで妙に張り切っていたというわけか」
「菜摘くん?」
秋人には聞き覚えのない名前だった。
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