23人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
第一章 spring
両親の十三回忌が菩提寺で滞りなく済み、帰りしなにここ何年か顔を出していなかったフォレストに立ち寄って行こうと櫻井 秋人は考えていた。
陽はまだ高く、時間は充分にある。
寺の境内を後にした秋人は、駅までの道程を川沿いに歩いていくことに決めた。
この川沿いには二百メートルは続く桜並木がある。
まだ三分咲きぐらいだろうが春の風が心地良く、なんとなく桜を愛でながら歩きたかったからだ。
秋人は十二歳のときに両親を交通事故で亡くした。
以来、高校を卒業するまでの六年間、世話になった交通遺児達が住む施設フォレストは、今回の転勤で借りたマンションから電車で一駅の距離にあった。
大学時代の四年間、就職してからの三年間の計七年間の間に訪れたのは片手の指で数えられた。
義理を欠くつもりはなかったのだが、大学も就職先もこの地から遠隔地だったためについつい足が遠のいていた。
川のせせらぎが耳に心地良く響き、ここ何日かで満開に咲き誇るであろう、亡き母の好きだった桜を眺めながら駅に着いた秋人は、目的地までの路線を再確認して電車に乗った。
最初のコメントを投稿しよう!