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とりとめのない話が他の先生方とも盛り上がり、何時の間にか陽は傾きかけていた。
フォレストには子どもたちが帰宅しはじめ、中には何年か一緒に過ごした子も随分と大きくなり、秋人の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきたりもしてくれた。
そんな光景を見守っていた小暮は、もう待ちきれないといった表情で立ち上がった。
「秋人、そろそろやろう。皆もお前の音を聞いたらすぐに集まってくるぞ」
「そうだね…。先生と一緒に弾くのは本当に久しぶりだ」
秋人もゆっくりと立ち上がり、二人は建物の奥へと向かった。
フォレストの一番奥には防音仕様の音楽室がある。
この施設の責任者でもある小暮が建設前に提案し、造られたものだった。
以来、子ども達に最も愛されてきた部屋だ。
「調律は定期的にしているから大丈夫だ。あの頃のお前に引けを取らない子が、今それを弾いているよ」
小暮の話に頷きながら、秋人は目の前にあるグランドピアノの鍵盤を叩いた。
ポォーンと澄んだ音が部屋に響く。
小暮は目を細め微笑んだ。
「さて、一曲聴かせて貰おうかな。そのあとに私が一曲披露するよ。勿論、その次からは合奏で弾きまくるぞ。何といっても三年振りだ。とことん付き合ってもらうからな」
小暮が愛用しているトランペットをケースから取り出すと、秋人はそれに頷き、やおら弾きはじめた。
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