Lover`s concerto 第二章  summer

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 軽く走っただけで息が上がってきた。  ほんとうに運動不足だと感じる。エスカレーターなどを使わず階段でフロアを行き来はしているが、椅子に座っていることも多いのであまり役には立っていないようだ。  同じ音楽を嗜んでいる人でも、金管楽器や木管楽器を演奏する奏者は肺活量が大きくて長距離を走っても平気という人が多いと聞く。  まさに小暮先生がそうだなと思った。トランペットを吹くときもえらく長いヴィブラートを聴かせてくれる。  ま、小暮先生はジムとかに通って体を鍛えるのが好きだからなと思う反面、あれは音楽のために身体を鍛えているのだと悟る。  ピアノを弾くのにも体力は必要だよな……と、思いながら第一目標の地点であるT駅の時計台近くまで来たときだった。  時計台の下で手を振る二人の女性の姿が目に映った。  息を切らしながら目を凝らすと、それは菜美と菜摘の二人だった。  ようやく時計台の下まで辿り着くと、菜美の弾むような声が届いた。 「秋人さん、おはようございまーす」  続いて菜摘の声が控えめに届く。 「おはようございます。何だか、もう息絶え絶えですよ。大丈夫ですか?」  たったの1.5キロをジョギングしただけでかなり足にきている。息も完全に上がっていた秋人はその場に座り込んで、ようやく返事をしていた。 「お……はよう。二人揃って、何で……ここに?」 「小暮先生と話していたことが聞こえていたから。で、菜摘さんも誘って美容と健康のために私たちもジョギングするって決めたんです」 「一人より何人かでやった方が継続すると思いますよ。約束みたいに思えて」  なるほど。そういうことかと秋人が納得した。  確かに約束事と思えば三日坊主にならなくて済む。一種の強迫観念みたいなものだ。  それに一人だとペースを上げてしまいがちだが、何人かと一緒ならゆっくりと足並みを揃えて走ればいい。  秋人は菜美と菜摘の心遣いに感謝していた。  
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