Lover`s concerto 第一章  spring

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Lover`s concerto 第一章  spring

Lover`s concerto  プロローグ  つい先日までの凛とした厳しい冷え込みは、早い春の訪れを知り何処かへ去ってしまったようだった。  窓から差し込む暖かな陽溜りの中、秋人は屋根裏部屋の天窓を静かに開いた。早春の空から降り注ぐ柔らかな風と光の輝きに積もっていた埃が舞い上がる。  クローゼットを開けると、暗闇の中で息を潜めていた段ボールや荷物が陽の光に驚き、戸惑っているようにも見えた。  秋人は小さな笑みを浮かべると、腰を屈めてそれらを丁寧に取り出した。  そして部屋の真中に座り込むと、手の届く範囲から段ボールの中身を片付け始めた。  整理しているのは十年前にもなる写真や手紙、そして楽譜にCDなどだった。  あれから一年が過ぎ、二年が経ち、気が付くと十年の歳月が流れている。  この年月にあった様々な身の周りの変化で、少しずつだが彼の想い出は時と共に風化し始めていた。    人の記憶というものは、まるで砂で出来た城のようなもの。  想い出という砂が、少しずつ風に乗って何処か遠くへと消えて行く。  でも、本当に大切な想い出はきっと忘れることはないだろう。  いつまでも胸の中にそっと輝いていてくれる。  もう二度と戻ってはこないあの時間、あの季節。  陽溜りの暖かさに誘われ、秋人は片付けをしていた手を休め、大きく伸びをするとその場で横になった。  階下からパッヘルベルのカノンが微かに聞こえてくる。  甘く切なく感じられるタッチで奏でられるピアノの音色。  メロディがメロディを追いかけていくその調べを耳にしているうち、秋人はまどろみはじめていた。  あの人と過ごした季節、そして時間が走馬灯のように思い出されてくる。  少しずつあの人の声が、顔の輪郭が脳裏に甦ってきた。  そして、あの人の笑顔がはっきりと思い出されたとき、秋人は夢の中へと落ちていた。  
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