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「黒猫ちゃん……?」
姫が身を乗り出した。救いの手を伸ばすように。
一瞬、歩みを止めた黒猫だったが、涙を浮かべている姫の顔を見つめると、とことこと腰の辺りに擦り寄って来た。
そっと手を遣り猫の首元を撫でると、目を細めてサイレントにゃーをしてくれた。
「黒猫ちゃん……、私が転げ落ちたの心配して来てくれたの?」
撫でていると、首輪の鈴が微かな音を立てた。
ネームタグに何か書いてあるかと近づき目を凝らすと、『スピカ』という文字が見てとれた。
「キミの名前はスピカちゃん? 女の子なのかな……?」
それに応えるように尻尾がぶるんと一回転し、うにゃと返事をしてくれた。
「来てくれてありがと。スピカは優しいのね」
姫は黒猫をぎゅっと抱き寄せる。
不安だらけの胸が束の間、ほっとする暖かさを感じた。
懐中電灯にランタン、コンパス、ロープなどを装備したリュックを背負い、姫がいなくなった地点と状況を、真壁を含む捜索隊の面々が真剣に聞いていた。
捜索隊は真壁を含む計五名。いずれも地元居住者で、サークル観測会に入り浸っている男連中だった。
ある程度の目星を付けたサークルの捜索隊は、二名一組で目星の場所を捜索する段取りを取った。
出発の寸前、やはりリュックを背負った望が「僕も行きます。連れて行ってください」と駆け寄ったのだった。
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