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プラネタリウム 番外編
「ファーストスター」
「あり得ない……こんなの」
姫は読んでいた脚本をテーブルの上に投げ出すとソファにごろりと寝転がった。
「監督さんはイメージを大切にしたいって言ってたけどさ。大体、この東京のど真ん中に……こんな排気ガスとスモッグだらけの汚い街に降るような星空なんて見えるわけないじゃない。脚本自体が間違っているとしか思えない。街を美化し過ぎなんだよね。クリスマスイルミネーションじゃあるまいし」
クランクインまであと三週間。
台詞は全て覚えたものの、どうしても役作りが上手くいかない。
ヒロインのイメージが掴めないのだ。
姫は天井を見つめながら星空を頭の中で描こうとした。
けれど脚本に書いてある、降るような星空が浮かんでこない。
沸いてくるイメージは、ネオンサインや街灯の先に浮かぶ狭く切り取られた灰色の夜空だけ。
星なんてひとつも見えてこない。
「ダメだ……。こりゃ」
溜息を吐いて起き上がった姫は、十二階にあるワンルームマンションの窓から外を見遣った。
眩しいほどの陽光が街を照らしてはいるが、ほんの数百メートル先は霞んで見えた。
「あぁ、もうどうしよう。東京生まれ、東京育ちの私が夜空の美しさなんて知るわけないじゃない」
栗色の柔らかなウェービーヘアを掻きむしりながら姫は窓辺で悪態をついた。
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