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翌朝、今日から冬休みになったことをすっかり忘れていた花梨は飛び起きて慌てふためいていた。
「あーん、お母さんったらどうして起こしてくれないの。目覚ましも鳴らなかったし」
時刻は既に八時を過ぎている。
半分涙目で制服を鷲掴みにし、リビングにバタバタと降りて来た花梨を見て母がにやにやと笑っていた。
「おはよう花梨」
「お母さーん、どうして起こしてくれないの。完全に遅刻だよぉ」
「はいはい、そういうと思っていたわ。けどね、今日からあなたは、ふ・ゆ・や・す・み、でしょ」
瞬間、制服がばさりと床に落ちた。
「そうだ……。今日から冬休みだった。だから昨夜は安心して長電話したんだっけ」
独り言を呟いた花梨の言葉を、母は軽く受け流しながらも問い掛けた。
「あら、やっぱりそうだったの? 楽しそうな声がドア越しに聞こえていたもの。陽菜ちゃんと?」
ドキリとした花梨は固まりつつも、うんうんうんと頷いた。
まさか年上の男性と夜中まで長電話していたなんて、今はまだ言えるはずもない。
自分の気持も立ち位置さえも分からないのに。
母とは姉妹のように仲が良い。ピアノ教室を営んでいるだけあって社交家だし、様々な年代の生徒を相手にしているから気が若くお洒落だし、何よりもジェネレーションギャップを感じさせないところに娘としても話しやすさを感じている。
きっとそのうち話すことになるんだろうなと、花梨は床に落とした制服を拾い上げた。
「遅刻だと思ったから完全に目が覚めたでしょ? 朝食、私もまだだから一緒に摂ろうか」
「うん。制服、部屋に置いて着替えてくるね。私、ママレードたっぷりのトーストにベーコンエッグが食べたいな」
「あ、いいわね。じゃお母さんはブルーベリーたっぷりにしようっと。簡単にグリーンサラダも作るから。サニーサイドアップでいいよね」
「はーい。着替えたら手伝うから、ちよっとだけ待っていてね」
制服を胸に抱え、軽やかに二階への階段を駆け上がる。自室に入り、遮光カーテンを開くと煌めくような冬の陽射しが部屋の中で踊りはじめた。
制服をハンガーに掛けてクローゼットに仕舞い、部屋着に着替えようとするとベッドに置きっぱなしにしていたスマホが短い着信音を告げた。
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