つむちゃんが死んだ。

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コンビニを出て、入り口脇に停まったワゴン車の横を過ぎようとした時、不意に運転席の窓が下がった。 おう、久しぶり。 少しハスキーな声と少年のままの笑顔があった。 雪が降っていた。 傘を買おうとコンビニに入ったところで財布を持っていないことに気づき、引き返したところだった。 傘を持たず、上着さえ羽織っていないわたしを見て驚くつむちゃんに苦笑いを返すと、それ以上深くは尋ねてこなかった。 どうしてそうなってしまったのか、今となっては不思議でたまらないけれど、わたしは当時付き合っていた男に、身も心も支配されていた。 度を超した束縛や度重なる暴力に耐えかねて、片隅に残っていた理性と気力を振りしぼり、決死の覚悟で男の家を飛び出したのだ。 この状況を説明する気力など到底残ってはおらず、つむちゃんには今から実家に帰るということだけを伝えた。 すぐそこやし乗ってけば? 彼はそう言って、暖房が強めにかかった助手席にわたしを招いた。 雪がわずかに積もり始めていた。車窓を流れる見飽きたはずの地元の風景が、どこか新鮮に映った。 変わらないつむちゃんを見て、必死で兄の背中を追いかけていた幼少期や、レナとふざけてばかりいた日々を懐かしく思った。自業自得とは言え、どん底の毎日を送っていた当時のわたしにとって、それはあまりにも眩しい思い出だった。 家に着くまでの約10分間、わたしたちは他愛のない雑談を交わし、手を振り合った。それだけだ。
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