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晴れ渡る雪山。
白銀と青に彩られた冬の世界。
風が吹く音、大気が鼓膜に触れる音、雪が木から落ちる音、雪原を進む自分の足音。それ以外は無音。
人工的な雑音が一切聞こえないこの空間は、まるで自分しか存在がいない別世界へと迷い込んだみたいだ。
所々に錆びた鉄塔のような建造物が立っている。
生きた人間味が感じられないこの場所は、独特な雰囲気に包まれていた。
こんな場所、二度と来ることはないに決まっている。
だからこそ、ここに全ての負の感情と淡い記憶を奉納して、再来月に迫った社会人生活を新たな気持ちで迎えようと思った。
「東根春太郎、22歳!俺は、全ての過去をこの雪山に置いていき、春から第二の人生をスタートさせてやる!!!!!」
救助隊すら来るかわからない山中の雪原で、過去の人生に区切りを付けるために一人で叫んでみた。
返ってきたのは風の音。
それから、背後で雪を踏み締めたような音。
友人が探しに来たのかと思い、ハッと後ろを振り向くが、そこには誰もいなかった。
ただ、無造作に崩れた雪があるだけで...
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