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あまりの出来事に、未だに家族にも話せていなかった。だからこうして、いつものように出勤する風を装って、人気の少ない公園で時間を潰しているのだ。
「これからどうしたもんかなあ」
こんな生活をずっと続けるわけにはいかないだろうし、いつかバレるのが関の山だ。かといって、50代の自分が就活したところで、はたして新しい会社に就職出来るだろうか?
そんなことをぼんやりと考えていると、いつの間にやってきたのか一匹のネコが目の前に座っていた。
「なんだ、野良ネコか。お前はいいな、気楽そうで」
そう言うと、ネコはピョン!とベンチに飛び上がり、カバンの上に寝そべってしまった。
「おい、こらっ! 仕事用のカバンに乗るな!」
そうは言ったものの、ネコはまったく動こうとしない。
「なんなんだいったい……。昨日の今日で、踏んだり蹴ったりだな」
なんとかカバンの上から退かそうと、ネコの体を持ち上げようとする。だが、ネコは「ふにゃあ~」と不機嫌そうな声を上げ、こちらを睨み付けた。
「いや、だから、お前が俺のカバンに乗っかってるからだろ? それがないと、仕事に行けない──」
言いかけてハッと気付く。自分は仕事に行くつもりもなく、ただ公園のベンチでぼんやりしていただけだと。
隣で気持ち良さそうに眠るネコを見て、男は自嘲気味に笑った。
「今の俺は、お前とおんなじだな。何にもしないで、公園でボーっとしてんだから気楽なもんだ」
すると、男の言葉が通じたのか、ネコは薄目を開けて「にゃあ」と鳴いた。
今の自分が公園のネコとなんら変わらない事を悟った男は、スッと立ち上がると歩き始めた。
「とりあえず、ダメ元で職探しだな」
そしてちょっとだけ振り返ると、ベンチでくつろぐネコに向かって言った。
「明日も来るかもしれないから、そのカバン預かっててくれよ」
そのネコが返事をしたかは聞き取れなかったが、男は満足げに公園を出ていった。
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