結晶を砕くナイフの下

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 初雪が一面に薄く降り積もった師走上旬。 凍えるような寒空の下、僕は彼女とイルミネーションを見に来ていた。 カップルが揃ってデートに出掛ける。けれど、手は繋がない。 はっきり口に出さずとも、彼女はこの意味を薄々勘付いていたはずだ。 今日は彼女の誕生日。祝福を煽る高揚感はいつどこで置き去りに――。  久々に間近に認める横顔は意外にも綺麗だった。 ふとした美しさに、僕は不覚にもしばし魅了される。 関係を修復したいという気持ちも少しだけ芽生えた。  音を立てず空気の海に沈む雪が、眩いLEDライトに照らされ、朱に染まる。 長らく鼠色の空を眺めていた彼女がマフラー越しに呟いた。 「誰かが雲の上で死んじゃったみたい」 随分おかしなことを言うんだな、と僕は思った。 雪に血が滲んでいるように見えたのかな。 もしも僕たちが未だ恋に燃えていたなら、そんな台詞は出てこないはず。 「……やめてくれよ」 僕はそうぶっきらぼうに返すしかなかった。 時が過ぎるのを待つばかりとなった気まずい雰囲気が辺りを渦巻く。 その後、予約していたフレンチレストランに足を運びはしたものの、 当然お互いに一言も喋らない。高級な味なんてちっともしなかった。 プレゼントも結局渡さずじまい。何もかもメチャクチャだ。 それどころか僕は、怪しく唇を拭う彼女に妙な緊張さえ覚え始めていた。
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