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「まあ、できる限りのことはさせて頂くわよ」
「どれぐらいができる限り?」
瑞希の問いかけに、そうねぇと少し考えてから里香は答えた。
「……明日からドバイに住みたいとか言われても困るわね」
里香の例えが基準として当てはまるポジションが見つからず、瑞希は思わず眉をひそめてしまう。
「呪文一発、何でもかんでもスピード解決、とはいかないって話よ。最終的にドバイに住みたい、という事であれば、力にはなれるけど」
半年ぐらいは見て欲しいわね。基準の有無は分からなかったが、手で何かを数えながら里香はそう付け加えた。
「他には?」
「お安くはない……かな。まあ、ドバイに住めるような人にとってははした金だけど」
里香は付け加えるようにそう言って、一つウインクをして見せた。
親指と人差し指で輪っかを作るのも忘れない。
足元の豆炭が、その仕草を咎めるようににゃあと鳴く。
瑞希の中で、神秘性はすでに靴と靴下を脱ぎ、裸足で逃げ出すべく準備体操を始めていた。
ここまでではっきりしたのは、どうやら目の前に立つ自称本物の魔女は、ドバイに何らかの憧れを抱いているらしいと言う事だけだ。
果たして彼女に任せて大丈夫なのか。
そんな考えが頭を過ったが、瑞希はそれをすぐに振り払った。せっかくここまで来たのだ。とにかく、話だけでもしてみよう。もしインチキなら、その時に考えればいいんだわ。そう自分に言い聞かせた。
「分かりました」
「改めてマジョリカの店へようこそ。それで?」
「私、カフェをやってるんですが……」
そう言って名刺を差し出す。
里香は受け取ると、それを二本の指で挟んだままニッと笑った。
「客が来ないのね?」
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