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「いえ、順調。売り上げも上々」
「あ、そう」
外したことに対してか、あるいは瑞希の店が順調だといったことに対してか、とにかく里香はつまらなさそうな反応を見せた。
また、豆炭が強めににゃあと鳴いた。
まるで無礼に主人を嗜めるようなタイミングだったので、瑞希は思わず黒猫に目を向ける。
黒猫の方はその視線に気づいてから瑞希の方に目を向けなおした。しばし見つめあう一人と一匹。結論としては、とても可愛くて賢い黒猫ちゃんとなり、瑞希の胸がきゅんとした。
一方で、神秘性は軽めのダッシュを始めた。逃げ出すのは時間の問題だ。
そのせいか、カウンターの角っこの塗装が剥げているのが気になった。
やっぱり帰ろうかな。そう思った瞬間、再び里香が口を開く。
「恋の……悩みかしら?」
瑞希の胸がドキリと大きく一つ動いた。
まさに彼女が持ってきた案件だったからだ。
「当たりの様ね」
里香はそう言ってにこりと笑った。
「は……はい」
「どんな恋のお悩みかしら? 心配しないで、ここでの会話がどこかに漏れるなんて事は無いわ」
「じ……実は、店にいつも来る常連の男の子に一目惚れしてしまったんです」
「ほほう」
里香の姿勢がやや前のめりになった。
その顔に浮かんだ笑みは、先程の物より若干厭らしい。
豆炭がカウンターの上に飛び乗り、里香と瑞希の間に入り、主人に向ってにゃあ、と少し強く鳴いた。
「まあまあ、猫は黙ってなさいな」
その豆炭の頭に自分の手をのせ、やや乱暴に撫でまわす。
「さ、続けて頂戴」
里香に促されるまま、瑞希は話を続けた。
「向こうは多分私より随分若くって、学生さんっぽいんです。平日の昼間からお店に来ることもあるから、きっとそうです」
「なるほど年下の男の子というわけね」
からかうような口調で里香が言うと、顔を赤くして瑞希は一つ頷いた。
「でも……」
「でも?」
「やっぱり自分からは言い出せないというか……」
「年の差が気になる?」
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